第3話

私はいつまで、シュウの家のパーティーに行っていいんだろうか?

私に彼氏が出来たら、行かなくなるのだろうか?

シュウに彼女が出来たら……そっちのほうが行けなくなるな。ちょっと寂しい。


そんな事を思いながら街灯に浮かぶ影を見ていた。


「チア部、大会残念だったな」


シュウは白い息を吐いて笑う。

昔から変わらない笑顔。

いつもニコニコとして、穏やかな口調でまっすぐに前を向いている。


「うん。まぁ……惜しかった。もっと頑張らなきゃね。言い訳になるけど、何人か負傷者もいたしね……まあ、自己管理や運も実力のうちだもんね」

「そうだよなぁ。運動やってっと、どうしてもケガはつきものだしなぁ。俺らも本当に気を付けてるけど……マイも、気を付けろよ?」

「うん……また来年もがんばるからさ、まぁ応援きてよ」

「うん! マイはいつも応援する側だもんな! 俺ら気合い入れて応援するよ、そうだなぁ俺らも……いきてえなぁ、もっと頑張らなきゃなぁ」

「甲子園かぁ」

「うん! そしたらマイ、すげー応援しろよ」

「すげー応援ってどんな応援よ」

「あはは。ともかくスゲー奴だ」


マンションのエントランスはシンとしていて、エレベーターが降りてくる音が聞こえた。


「はぁ、寒かったな」

「うん」


小さな箱の中でシュウの汚れた練習用のユニホームからグランドの土の匂いと、男の子の匂いを感じて顔をあげた。


「じゃあな! おやすみ」

「うん……おやすみ」


当たり前のように繰り返される同じ毎日。


生まれた時から当たり前みたいにいたシュウ。


幼稚園では一番小さくて泣き虫で、いっつも私の後をついて回っていた。


小学生になって野球を始めた。その頃から泣き虫が治って、体がメキメキ大きくなっていった。

小学校を卒業するときには、一番大きくなっていた。

中学では割とモテて、ラブレターをよく貰っていた。キューピッドになってくれ、なんて頼みも何度かあったけど、そっけなく断ったりした。

 意地悪じゃなくて、そういう事はきちんと自分で伝えるべきだと思ったからだ。


……シュウはいつから、あんなに男の子になったんだっけ?


制服を脱いで、リビングキッチンでガスファンヒーターの、スイッチを入れる。


「寒い」


父は単身赴任中。

看護師の母は、今日も夜勤だ。


慣れてはいるけれど、寒い家のなかは何だか哀愁漂う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る