015 美味しいハンバーグを作りましょ



 ハンバーグという料理は、意外と簡単だったりする。


 工程が多いため手間のかかる料理に見えるが、一つ一つ整理していけば思いのほか分かりやすいものだ。

 というわけで作っていこう。まずは玉ねぎのみじん切りからだ。

 玉ねぎの繊維というのは円を囲むようにできており、その繊維に沿って包丁を入れていけば、簡単にみじん切りができる。

 繊維を無視すると、細長い千切りみたいなのができてしまうんだよな。

 これがなかなかにウザく感じていたものだ。繊維に沿って切ればいいと知った際、もっと早くこれを知りたかったよと、心から嘆いたものだった。


「ほぇー、みじん切り上手だねぇー」


 カウンターキッチンであるため、目の前から有倉が興味深そうに、俺の料理している姿を覗き込んでいた。


「玉ねぎって丸々一個をみじん切りにするんだ?」

「あぁ。ハンバーグに使うのは、半分くらいだけどな」

「残りは?」

「ソースに使う」

「お、なんか美味しそうだ♪」


 せいぜい楽しみにしておきなさいな。お望みどおり美味しいのになるから。

 さて、みじん切りにした玉ねぎを小さなボウルに入れといて、と。ついでに付け合わせ用のピーマンも細切りにしてしまおう。

 まな板と包丁はもう使わないから、流しに置いておく。


「あ、私それ洗うよ」


 有倉が動き出してくれた。それは非常にありがたいんだが、何故君はクローゼットのほうに向かうのかね?


「えーっと、エプロンはどこだっけなーっと……あぁ、あったあった!」


 ポイポイと服を放り捨てながら、ようやくそれを発掘したらしい。見つかったこと自体はなによりだけど、まーた散らかしてくれましたね。

 折角あんなに片付けたというのに――まぁ、別にいいけどさ。


「あれ? どしたの片瀬くん?」

「……別に」


 いちいちツッコミを入れていたらきりがない――そう思っておくことにした。これ以上、飯の時間を遅らせるようなことだけはしたくないし。


 さーて気を取り直して――お次はいよいよ肉だ!


 まずは下準備として、小さなボウルにパン粉ワンカップを入れ、少量の水で軽くふやかしておく。

 これは『繋ぎ』に使うので、このまま置いておけばOKだ。

 続けて大きめのボウルに買ってきた合い挽き肉五百グラムを一気に入れてしまう。そこに塩小さじ一とブラックペッパーを多めにふりかけ、ひたすら捏ねる。粘りが出るまで捏ねるのだ。

 ここでしっかり捏ねておかないと美味しいハンバーグにはならない。決してサボれない工程と言えるだろう。

 さて、粘り気が出てきたら卵を一個割り入れ、肉に刷り込むようにして捏ねる。

 卵が肉に馴染んでひとまとまりになったところで、先ほどふやかしておいたパン粉を投入する。そして一気に混ぜる。グッシャグッシャと思い切りね。


 ここまで来れば、後はもう一息だ。


 最後にみじん切りにしておいた玉ねぎを半分ほど放り込み、肉と混ぜていく。

 俺の場合は、玉ねぎは最後に入れるのだ。最初に入れてしまうと玉ねぎが潰れ、そこから水分が出てしまう。そうなれば肉がべちょっとするだけでなく、焼いた際に出てくるはずだったジューシーさも半減してしまう。

 玉ねぎの水分もまた、ハンバーグのジューシーさの要なのだ。


「――あれ? 玉ねぎってそのまま入れちゃうんだ?」


 まな板と包丁を洗い終わった有倉が、俺の作業を覗き込んできていた。


「ハンバーグに入れる玉ねぎは炒めるって聞いたことあったけど……」

「実際は炒めなくても大丈夫だよ。焼いているうちに火は通ってくるからな。玉ねぎを炒めるのは、玉ねぎの甘みを利用するためだ」

「それって違うの?」

「多少はな。ソースたっぷりかけて食べる分には、正直どっちでも変わんないよ」


 ちなみに炒めた玉ねぎを使うとコクが増すと言われている。その代わり炒めるという工程が挟まるため、正直面倒なんたよな。

 だから俺はハンバーグを作る際、玉ねぎを炒めない方向でずっと通している。

 正直、そっちのほうがジューシーで好きなんだよね。ここはもう完全に人の好みになってくるから、どちらが良いとは一概には言えないんだが。


 さーていよいよ成形だ。


 四つ均等になるよう丸めるようにして分けたら、それを一個ずつキャッチボールをする要領で叩き、中の空気を抜く。

 何気にこの作業が俺は好きだったりする。

 パァン、という軽快な音が鳴ると気分が良くなるんだよなぁ、これが♪

 そして中心部にしっかりと『窪み』を作って――ハンバーグのタネの完成だ!


「後はもう焼くだけ?」

「そうだな」


 まずは付け合わせの野菜ソテーを……といきたいところではあるが、ハンバーグは焼くのに時間がかかるため、先にそっちを作ると冷めてしまう。

 なのでまずは先にハンバーグから焼き始める感じだ。

 それはそうと――


「これ……明らかに新品だな」


 何種類か揃えられていたフライパンの一つを手に取ると、明らかに使った形跡が見当たらなかった。

 すると気まずそうな笑い声が、隣から聞こえてくる。


「えっと、その……買ってきて以来、インテリアと化してまして……」

「だろうな」


 どうせそんなことだろうとは思っていたよ。だからもはや驚きもしないさ。

 そんなことよりも、俺は最初から気になっていたことがある。


「まさかコンロ四口とは……流石タワマンだ」

「そ、そんなに凄い?」

「実家の三口までしか見たことないな」


 幸いだったのは、ウチと同じガスコンロ形式だという点だろうか。こういう場所のコンロってIHタイプが多いと思っていたんだが、そこは予想が外れたな。

 まぁ、俺としてはありがたい限りだけど。


 さてさて――無駄話もこれくらいにして、いよいよ焼いていこう!


 フライパンに直接ハンバーグのタネ四つ全てを置いて、そのまま火にかける。

 ダイヤモンドコート加工のフライパンなので、油は引かなくていい。肉から出てくる脂で十分だ。

 まずは両面を焼き色がつくまで中火でザッと焼く。そして一旦火を止め、ハンバーグが半分浸かるまで水を入れたら蓋をして、今度は弱火でじっくりと焼いていく。

 早い話が煮込みハンバーグの要領だ。

 こうすると焦がすことなく、ちゃんと中まで火が通るのだ。


「焼き上がるまでどれくらいかかる?」

「十分くらいかな。その後にソースを作るから、完成まで大体十五分くらいか」

「おー、楽しみじゃのう♪」


 にゅっと顔を寄せてくる有倉。自然と体も近づいてきているが、特に俺も気になる感じはしない。

 特に会話が広がることもなかったが、不思議と雰囲気は悪くなかった。


 そして十分後――蓋を開けるとふっくらとした四つのハンバーグが姿を見せた。


 四つとも皿に上げておき、残った水に残ったみじん切りの玉ねぎを投入。更にケチャップとハンバーグソースも適量を入れて煮詰める。

 こうすることで、流れ出た肉汁と混ざって濃厚なソースになるのだ。

 ソースを煮詰めている間に、別のフライパンで付け合わせを作ってしまおう。

 ピーマンともやしのソテーだ。シンプルに塩とブラックペッパーで味付けしただけのものである。ソースもあるからな。これくらいで十分だ。


「よし、完成!」

「スープのお湯も沸いたよー」

「じゃあそっち頼むわ」

「はーい」


 すっかり遅くなってしまったが、これでようやく夕食の完成だ。ちなみに白飯は、時間が時間なので今日は控えることにした。

 炊飯器の出番がないと、有倉が不満を漏らしていたことを追記しておこう。





―― あとがき ――


今回のハンバーグの作り方は、私が普段家で作っているやり方そのものですw

なんか料理漫画っぽい展開になっちゃいましたが、たまにはこーゆーのもありますよってことで、どうか一つ<(_ _)>




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