第21話 顔色がよくなったよ◆side雄郷◆

 どうして、あの時勇気を出せなかったんだろう。


 あんな言い訳して。


 でも、あの時告白しても吊り橋効果込みで考えてるとか思われたり、恩に着せてるって思われるかもしれない。

 そんなのヤだよ……いや、これも言い訳。


 まだ……



 多分吹雪ふぶきさんは俺の事を憎からず思ってくれてるんだと思う。


 今日、第2倉庫の外から声をかけて返答があった時、本当にホッとしたし、俺の車に吹雪さんが乗り込んできたとき、緊張したけど……ちょっとうれしかった。


 ならいいんだろう。

 閉じ込められている吹雪さんを救出というか、扉を切って穴を開けたのは事実なんだから、どれだけ時をおいても、吊り橋効果云々とか恩に着せて云々は変わらない、生きてる限り。


 …

 ……


 ヨシ!


 今度の土日のどちらかで誘って、告白しよう。

 吊り橋効果云々とか恩に着せて云々についても……告白される方にとっては否定できないものであることをちゃんと告げよう。

 もちろん断られることは望まないが……


 負けない。



 ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 あ、母さんから電話。


「もしもし」

『出た、ということは地震大丈夫だったんだね』


 ……その解釈は正しいけど、会話が成立してなくないか? 母さんよ。


「まあ、実害は……俺には実害はなかったよ」

『というのは?』

「うん、以前話した吹雪さんが倉庫で探し物をしてて――」


 …………


『それは大変……って雄郷ゆうごうの話しぶりだと大丈夫だったんだね』

「うん。社内に災害対策本部という組織が立ち上がって、そこの指示でセーバーソーを用いて扉を切って救出した」

『まぁ、そういうことなら吹雪さんは雄郷のことを本気で好きになった?』


「そんなの出会い頭というか吊り橋効果と受け取られるかもしれない」

『この子ったら、自身に対する評価が低いんだから……祐樹ゆうきさん』

『雄郷、聞いてる話から判断すれば、吹雪さんは雄郷に好意を持ってくれてるぞ』


 いつの間にかスピーカーホンになってるし。


「いや、今日扉にあけた穴から出てきていいよって言ったのに出てきてくれなかった。で、セーバーソーなどの片付けを命じられて、結局出てきたところは見てない……イヤだったのかな』

『たぶん、お化粧が崩れちゃってたからじゃない?』


 お化粧が崩れた?


「それってそんな大変なことなのか?」


『付き合えるかどうかってときは化粧の崩れた顔は見せないよ、女は』

「あ、そうなんだ。で、結婚したら、寝ぐせでどこかのRPGの勇者みたいなツンツンヘアー&すっぴん『なにか!』』

『こらこら雄郷。まあそういうわけだから安心していいと思うぞ』


『そのうち連れてきてね。グランクラス代ぐらい出してあげるから』


 グランクラスだからといって早く着くわけじゃないぞ。

 というか、付き合ってないし、付き合えるかどうかも分からない。


「何言ってんだよ。恋人同士ってわけじゃないぞ」

『雄郷とその子、お互いに関心があったんだろ。今日のことは不幸な災害だったかもしれないけど、雄郷にとって、多分吹雪さんにとっても機会チャンスだと思うぞ。まあガンバレ』

「……うん」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『おはようございます、坂元さかもとさん』


 顔色がずっと良くなった。うん、よかった。


「おはよう、吹雪さん。顔色がよくなったよ」

『昨日はありがとうございました』

「俺は上の指示で俺にできることをやったまでですよ?」

『誰の指示だったとしても、それでも坂元さんは恩人です』

「はい、それはありがたくお受けします……でも、それはここで終わりにしませんか?」

『え?』

「あまりお礼ばかり言われると、恐縮してしまいますので」

『そうですか……でもずっと心の中に置いておきますからね』



【ぼの】MMモーニングミーティングやるよ~


【ぼの】吹雪さんは昨日の件をこの後すぐ課長に報告して、その後10:00から社長からお言葉があるということで課長と一緒に9:55までに役員室へ行って

【ぼの】その他の人はスケジューラー通り

【ちおり】はい

【ゆーごー】社長とサシか~

【嶌】(しま 祐司ゆうじ)なかなかないよ~

【ぼの】はいはい、閑話休題。それでそれぞれが持っている案件について進捗を報告して――


 …………


『ただいまです』

「おかえりなさい、どうだった?」

『お詫びと、今後の方針をおっしゃいました。入社式のときも思いましたが丁寧なしゃべり方をする方ですね。あ、クッキーをいただきました』

「これ、結構いいクッキーでは?」

『そうですね。せっかくのクッキーですから、コーヒーを買いに行きませんか?』

「そうですね。そろそろほしくなってます」


 誘うチャンス?


 ◆◆◆◆side千桜莉ちおり◆◆◆◆


 雄郷さんは、いつものキリマン……あ、今日はブラックじゃなくて砂糖入り。


『糖分が欲しくってね』

「わかります。じゃ、私も」


「もうちょっと砂糖が少ないほうがいいんですけどね」

『この機械、そこまで調節できないからなー』


 うん、そうだ。


「スティックシュガーなんていいですね、半分づつ使うとか」

『それはいいね』

「買っときますね」

『悪くない?』

「大丈夫ですよ」


 お役に立てるのはうれしいから。

 ん、雄郷さんの顔が締まってきた。ひょっとして?


『あー吹雪さん』


 ん、足音。


『いやー。この前のReview設計仕様検討で懸案になった件があったろ』

『Mr.Agano阿賀野、それライブラリーをあたったんですが、使えそうなファイルがありましたよ……ん、Chiori』

『あれ、カードフォルダ忘れてる。Ms.JohnstonジョンストンKathleenキャスリーン Vincentビンセント Johnstonジョンストン)、ちょっと取って来るね』

Please take careお気をつけて, Mr.Agano阿賀野



Kateケイト!」


『吹雪さん、同期の人?』

「はい、そうです」


 雄郷さんの表情が戻っちゃった。


『俺、先に帰ってるよ』


 どうしてくれるのよ!


「いいところだったのに!」

『え?』


『あれがMr.Sakamoto……』

「“あれ”とは何よ!」

『昨日のことは知ってるよ……なるほど、知らなかったとはいえゴメンね』

「そうよ!」


「今度、何かおごってね」

『わかったわよ』


 …………


 Kate達に邪魔されちゃった……うーん、どうしよう。


 じゃ、プランB。


「坂元さんはお弁当ですか?」

『はい、いつもの自作弁当です』

「私も今日は弁当を作ってきました。それで、休憩コーナーでご一緒しませんか?」


『あの、いいですけど、俺の弁当はあんまり映えるおかずとかないですよ』

『食べ物は、美味しくて栄養のバランスが優れているのが一番ですよ。味とか栄養を考慮したメニューですよね』

『そりゃまあそうですけど……ご一緒しましょう』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 お弁当を一緒に食べるのは2回目です。




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