第22話 お弁当作っていきますね
『ワカメごはんですか。美味しそうですね』
「はい、我が家の朝食は必ず海藻が出ます。そのせいなのか虫歯ができたことないです」
『それはいいことですね。俺もそうしてみようかな』
ん、
『
「特に何かに打ち込んでるとかはありませんので、だいたいヒマですよ」
小説は内緒。
『この、土曜日はいかがでしょう』
「空いてますよ」
『えっと……』
早く言って!
『アヤメって好きですか?』
「私の誕生日5月18日の誕生花はアヤメなんです。だから子どものころから大好きな花です」
『そういうことであれば、ちょっと遠いんですけど、
結構行ってるけどそれを言うとプランを潰しちゃう……でも行ったことがないは白々しすぎるかな?
「行ったのは小学校のころですので、行ったことがないみたいなものです」
『……あの、恩に着せるつもりはないんですが、今週土曜日にご一緒できませんか? 今ちょうど水郷潮来あやめまつりっていうのをやってますし』
やっぱりそういうことを気にしてるんだ。
「大丈夫です、私はそんな風には受け取りませんよ。土曜日ですね」
『他にも、“初めて”なのに遠すぎるという点もありますが……』
「それも大丈夫ですよ。アヤメ、今から楽しみです」
「
『えーとハナショウブは水辺に生えて、アヤメは土に生えるんですよね』
「はい。それに加えてハナショウブの花びらは付け根に鮮やかな黄色の部分があり、アヤメの花びらには網目のような模様が入っていてあまり黄色が鮮やかではありません」
『さすが誕生花がアヤメっていうだけのことはありますね。当日、晴れますかね?』
「雨の中のアヤメもいいですよ」
『なるほど、そうかもしれませんね。ああ、ここアジサイもあるんですよ』
「どっちも雨が似合う花ですよ」
「私、お弁当作っていきますね」
『え、いいの?』
「もちろんですよ。何か好き嫌いはありますか?」
『嫌いなものは特にないです。好きなものは、そうですね唐揚げとか」
唐揚げ……そういえば、あそこのから揚げ専門店に……うん。
「唐揚げですね。私も唐揚好きですし、他はロールキャベツが好きですよ」
『ロールキャベツ美味しいですよね。でもお弁当のおかずにはちょっと向かないかもです』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
同期の
『『『「かんぱーい」』』』
なんのことはない、飲みたいだけみたい。私も嫌いじゃないからいいけど。
『よかったよ、
「一時はどうなることかと思ったよ」
『でもなぜ閉じ込められちゃったの?』
「あの倉庫は、ここに以前あった会社の作業場を倉庫として使ってるとのことで、築50年かそれを超えてるらしいわ」
『50年!
『炙りシメサバ、鯵のなめろうです』
「ありがとう」
『あ、歓喜のお湯割りお願い。梅干し入れて』
「グラスワインの白お願いします」
『歓喜のお湯割り梅干し入り、グラスワイン白。よろこんでー』
『で、出入口扉の開け閉めが渋かったりしたこともあったから、もともと建物がいくらか歪んでたんだと思う」
『それってどういうこと?』
「うん、扉のスイングする部分を扉体って言うんだけど、その扉体の周囲に扉枠という枠があるの」
『うん』
「扉枠は建物にくっついてるから建物が歪むと押されて扉枠も変形して扉体に当たるから開け閉めが渋くなる……これは私一人が言ってるんじゃなくて、坂元さんもそういう見方だった」
『ナムル三種盛り、梅水晶です。あと、歓喜のお湯割り、グラスワイン白です』
「歓喜のお湯割りはKateだっけ?」
『
『ふーん、それで?』
「坂元さんや
『それは大変だったね。やっぱり怖かった?』
「そりゃそうよ。2回目の揺れで建物がギシギシって……崩れるんじゃないかって思ったよ」
『すいません。梅酒をロックでお願いします』
『こっちは、月光の水割りお願いします』
『梅酒をロック、月光の水割り。よろこんでー』
『閉じ込められて建物がギシギシいってるなんて、私なら間違いなく泣いちゃう』
「実は……私もちょっと泣いちゃったし、ひょっとしたら意識を失いそうになった」
『無理もないと思うよ』
『で、助けてもらったんだよね』
「うん、セーバーソーという電動工具で扉に人間が通ることができる穴を開けてもらった」
『ふーん』
「……」
『誰に?』
「……」
『坂元さんに助けてもらったって白状しな!』
!
「ちょっと、
『あれ~顔が赤くなってる』
『やっぱり!』
「これは違くて……理恵が暴露するから」
『暴露って、工場の備品使ったのに暴露も何もないでしょ』
『牛肉のタタキ、酒盗バターポテトフライ、焼鳥おまかせ五点です』
『梅酒ロック、月光水割りです』
『ありがとう。で、本当のところは?』
「その……坂元さんが呼びかけてくれた時は本当にうれしかった。意識がリブートしたというか」
『やっぱり!』
『でも、なぜにFamilyname?』
『この期に及んで!』
「先走らないでよ。まだ付き合ってるわけじゃないし」
『でも、希望してるんでしょ?』
「……うん」
『じゃあ、全力でね』
土曜日、雄郷さんと出かけるのは黙っておいたほうがよさそうね。
…………
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「
『フフ、どんなことろに行くの』
「茨城県の水郷潮来あやめ園に」
『ああ、あそこ。リクエストしたの?』
「ううん、提案された。だから出会い頭。でもしばらく行ってないということにしてる」
『フフフ、合わせたのね。出発は?』
「9:00に迎えに来てくれるって」
『で、どうするの』
「うん。お父さんにはまだ内緒」
『わかったわ。この日から集会所裏の倉庫の建て替え工事が始まるから、
「お父さん、その仕事取れたんだ」
『うん、そういうことだから安心していいよ』
「ありがとう」
『そういえばChioriは男の人を連れてきたことがないわよね。付き合ったことがないわけじゃないんでしょ?』
「……これまで何度か男の人と付き合ったことはあるんだけど、いい雰囲気になった矢先に、二股してたとか既婚者に手を出してたとかが発覚して」
『それは残念……だけどなんというかクズばかりだから、Chioriにとってはラッキーだったのでは?』
千鶴さんたちの地震前の幸せそうな様子を夢を見たのは、そういう男であることを暗に示していてくれたのかな?
「そうかもしれないけど、そんな男ばっかり近づいてくるなんて気が滅入るよ」
『Mr.Sakamotoはきっとそうじゃないよ。連れてくるのを楽しみにしてるよ』
「うん」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご訪問ありがとうございます。
こういう回は文字数が多くなっちゃいますね。
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