第3話
LGBT法案について
令和5年6月23日、LGBT法案が十分な議論はもちろんの事、解散総選挙を通して国民の信を問う事もなしに強行採決され、公布と同時に施行された。
この法案がどれだけ危険な物であるかは今さら言及するまでもないだろう。ところで実は僕には、この法案が公布されるよりも更に数年前、もしこの法案が本当に施行されたら社会が一体どれだけ混乱するであろうか想像させられうる事例を、この目をもってして直に目の当たりにした事があった。その時の出来事を書き記そうと思う。
それは会社の男性更衣室で作業着に着替えていた時の事であった。僕のロッカーのすぐ隣に、長い髪の毛を紫色に染めた「おばさん」がやってきたのであった。「なぜ男性更衣室に『おばさん』がいるんだ?」。一瞬そう思ったが、すぐに違うと気がついた。体型が明らかに男性的だったからである。ではなぜ「おばさん」と勘違いしてしまったのかというと、
「彼」の事はたちまち職場で話題になった。
…車の中でしきりに紫色の髪の毛を気にしてミラーを見ていた。
…顔にクリームを塗っていた。
…食堂で使っていた弁当箱が小さく可愛らしいデザインの物で、美容を意識してか野菜ばかりだった。
…乗っている車はベンツだし、内装も派手だし、もともと「夜のお仕事」をしていたのだが、コロナのせいで食いっぱぐれてこの会社にやってきたのではないか。
…などなど。
僕が、
「あの人、オレより体が大きいし、もし襲われたらどうしようって毎日ビクビクしてるんですよ」
正真正銘のおばさん相手に冗談めかしてそう言うと、
「トニー君、肌が白いからあり得るわね」
そのおばさんからそう言われ、笑われた事もあった。なお、このおばさんから聞かされた話によると、「彼」は当初、
「男性更衣室を使うのは嫌だ」
そう主張したのだそうだ。しかし会社としては、
「それは受け入れられない。男性更衣室で着替えて欲しい」
当然の事ながらそう説得せざるを得ず、結果、僕のすぐ隣のロッカーを割り当てられたのであった。
聞いた話によると、「彼」は最初の頃こそよく働いていたそうであった。だがしかし、しばらくすると、「髪が汚れるから嫌だ」という理由から、フォークリフトの運転が主な業務なのにも関わらずヘルメットの着用を拒否し始めたのだそうだ。事実、僕もこの目で確かに、「彼」がヘルメットを被らずにフォークを運転しているところを見た事があった。工場という、極めて危険な労働環境で、しかもフォークを運転しているというのにヘルメットの着用を拒否するだなんて一体どれだけ命知らずなのだろう。ともあれそれが理由で上司とたびたび衝突したらしく、ある日突然、会社へ来なくなった。ロッカーがすぐ隣だった僕としては、むしろその方が有り難かったのではあるが…。
性自認の一致していない全ての人が、こんなひどい勤務態度で業務を行うとは考えていない。まして彼らの生存権を否定しようなどとは夢にも思っていない。しかしもしLGBT法案が施行された後に、
「男性更衣室は嫌だ」
と「彼」がゴネ始めたら一体どうなっていただろう。何せフォークリフトの運転中にヘルメットを外すような人物である。この事例が指し知ら示しているように、良くも悪くも我が道を行く事への熱情には凄まじいものがある。同様に、LGBT法案を盾にして、女子更衣室の使用を無理やりにでも認可させようとしていた可能性が非常に高い事は日の目を見るよりも明らかである。男の僕でさえ嫌だったのだから、女性はもっと嫌に違いなかろう。もちろん、だからといって、何も少数派の生存権を否定しようなどとは夢にも思っていない。しかし少数派はどこまで行っても少数派なのだ。例えば社会には一定の割合で左利きの人がいるが、左利きの人たちのために社会をそのまますっかり作り替えてしまったなら、多数派である右利きの人たちの方が混乱してしまう。申し訳ないのだが、左利きの人にはもうそういう風に生まれついてしまったのだと諦めてもらい、多数派である右利きの人に便利なように作られている社会へと適応してもらうより他ないのだ。
また、LGBTを自認している人たちからでさえも、「むしろ逆に自分たちの立場が悪くなる」と反対意見が出ていたが、実際問題、以下に書き記すような事例が現実に起きかねないのがこの法案なのだ。
「男性更衣室を使うのは嫌です」
「いや、それは受け入れられません。男性更衣室で着替えてください」
「私は体は男でも心は女なんです」
「そこまで言うのであればもう仕方ない、採用を取り消します」
「それは差別だ!」
「差別ではありません。混乱を招く恐れが非常に高いからそう言ったまでです。むしろ逆にあなた一人のせいで大勢の女性従業員がいなくなってしまう事の方が我が社としては損失なんです」
かくして心と体の性が一致しない人たちは、そもそも最初のその時点で、職を得る機会を失くしてしまう、という事に相なるわけである。また同時に、「果たしてこれが本当に差別なのかどうなのか?」という裁判に社会全体が巻き込まれ、それよりももっともっと大事な問題を解決するための貴重な時間を失う事にも相なるわけである。これが悪法でなくて一体何だと言うのであろう。そして、この法案でいったい誰が得をするというのであろう。
だがしかし、その一方で、聞けば新宿にできた「ジェンダーレス・トイレ」は、ほとんど誰にも使われる事なく解体されてしまったという。自称「意識高い系」の人たちによって作られたはよいものの、結局利用される事なく失われてしまったのだ。お金の無駄遣いもいいところである。アメリカにおもねって施行したはいいものの、結局のところ、当初から常々指摘されていたとおり、「察する」という気風を持つ日本人の国民性とはまるで相容れない法案である事がこうして証明されたというわけだ。一体何のための強行採決だったのだろう。岸田総理も自民党も、僕にはもうまるで信用できない。
今までは他に支持できる政党がなかったがために、仕方なく、消極的に自民党に投票してきたこの僕であるが、次の選挙は無記名投票になるかも知れない。真の保守政党の台頭に期待したい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます