第5話

 修行を開始してから体感二週間が経過した。

 

 寝ることも食べることも必要ない身体がここで役に立った。俺はただひたすら課題をクリアするために修行し続けていた。


 全身に流れる魔力をイメージ。

 次に身体を刃物、鎌のように変化させることを想像する。それを頭の中で何度も何度も思い浮かべ、身体に流れる魔力に干渉し変化させる。

 すると。


(ぐぬぬ〜!!)


 俺の丸いフォルムから羽根のように二つの小さな白い鎌が生えた。


(やった!!)


 しかし、集中が切れた瞬間に鎌の羽は霧散してしまった。その直後、体内の魔力が減ってしまい脱力感に襲われて倒れた。

 見た目は完全に萎んだ風船だ。


 けれど、そんなことよりも【身体変化】を習得したことに対する喜びが勝った。

 俺は落ち着いて周囲から魔力を取り込み回復させると、先ほどの感覚を忘れないように何度も練習する。


(今の感覚、全身から魔力を抽出して変化させる感覚。変化、変化、変化、変化……)

 

 感覚を研ぎ澄ます。

 たった一度成功しただけでは実戦じゃ役に立たない。自然に即変化させられて初めて成功したと言えるんだ。


 そこからブツブツと心の中で呟きながら、永遠と倒れて、回復して、倒れて、回復してを繰り返す。

 そして、その瞬間は突然訪れた。

 

(身体変化:鎌)


 身体の一部が変化し鎌の形になる。


(身体変化:鎖鎌。鞭。刀)


 鎌から鎖鎌。鞭に刀。

 

(硬質化。軟化。同化)


 身体が岩からジェルのようになり、世界と同化して完全に気配を遮断する。

 そこで一度【身体変化】を解いた。


(掴んだ!掴んだぞ!!)


 食わず寝ずの修行のおかげで【身体変化】のコツをやっと掴むことに成功し、俺は確信した。この身体変化には無限の可能性があると。

 この身体変化に使用する魔力量は魔力操作を極めると限りなくゼロに近づける。

 今まで身体を動かす際には体内の魔力を操作し、その魔力は体外に霧散してしまっていた。けれど、操作した魔力を霧散させないように体内に留めることさえ可能なら魔力の消費はなくすことができる。


 まぁ、口では簡単な風に言っているが一朝一夕じゃ不可能な領域だ。

 今の実力なら前の魔力消費量の半分程度に抑えるのが関の山だし、身体を動かしながら【魔法】を使うなんてことをしたら、どちらかが暴発するだろう。

 だからこそ、魔力操作を呼吸するように扱えるレベルにならないとダメだ。

 

 そこから魔力操作を重点的に特訓することにした。

 傍から見れば地味だが毎日続けること。それが一番大事だ。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

  さらに一週間。

  あれから魔力操作は二十四時間体制で続けている。

  そのかいもあって練度は少しずつ上がってきて、身体変化までの速度も上がってきた。恩恵として身体を動かす際の魔力消費も大幅減だ。


  それと同時に【魔法】の研究も進めていた。魔法についても少しだけ理解度が深まった。


  魔法とはすなわちである。


  その点でいうと身体変化についても魔法に該当するだろう。

  もちろんイメージの具現化には制限はある。

  例えば、某青タヌキさんの未来の道具みたいな万能なものは生み出せない。

  そんなことが可能ならどこにでも行けるドアを生み出している。

  あくまでも考察であって、もしかしたら可能なのかもしれないが、俺の実力では不可能だった。


  どうやら魔力さえあれば誰でも魔法を使用できるのが、この世界の魔法みたいだ。なにその地獄って話だ。悪者も使えるのなら外の世界は安全とは言えない。

  

  分かったのはそれくらいだった。

  魔法の使い方に関しては一度理解してしまえば簡単だった。

  詠唱やら魔法陣なんて難しいことなんて必要ない。ただイメージをして魔力を制御して、変換して具現化させるだけだ。

  ただ残念なことに規模の大きい魔法には、それ相応の魔力が必要で、俺ができたのは簡単のものだけだった。


【魔法】

・炎

・水

・風

・土

・光

  

 この五つは簡単なものなら使えるようになった。

 ただ闇魔法だけはどれだけ頑張っても使用できなかった。

 この辺は研究する必要がある。もしかしたら何か条件があるのかもしれないし、実は適性という概念があるのかもしれない。

 誰か魔法を教えてくれる人がいれば解決する問題だが、今のところはどうしようもないので放置だ。

 

 理論?はん、そんなの知りませんよ!

 正直、よくわからないものは使うのは怖いがやれることは全部やると決めたので、その辺は考えるのはやめた。分からないことを考える無駄な時間を使うほど暇じゃないのだ。


 魔法に関してはアイデアと魔力総量次第で応用も効くだろう。

 できることが増えるのが嬉しくて、魔法の研究には一番取り組んだ。

 今後も時間を見つけて魔法開発は進めていくつもりだ。


 それに伴って魔力総量も順調に増えている。

 魔力の総量は使えば使うほど増えるみたいだ。

 最初のうちは炎を2~3個作れば倒れていたが、魔力を使い果たして倒れて、回復してを繰り返すうちに作れる個数も増えていった。


 この修行のいいところは努力が全部身になる点だ。

 やればやるほど強くなって、できることが増えていくのだ。

 地道な修行だけど、地道な努力ほど一番効果があるものなんだ。


(よし!この調子でがんばるぞ!!)


 こうして俺は洞窟の脱出を目指すという目的を忘れて、

 ただひたすらに修行を続けていた。

 

 

 

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