第4話

 ドスンドスンという騒音や、カサカサとした何かが通る音が洞穴の外から聞こえる。俺がチラリと洞穴から顔を出して周囲を確認すると、洞穴の外は化物の巣窟と化していた。俺が確認しただけでも蜘蛛、蝙蝠、蛇など洞窟にいそうな生物が大集合していた。


(うん! これ無理ゲーだわ!)

 

 それが俺が目を覚ましてから出した結論だった。

 

 洞穴で気を失った俺は、起き上がってから何度か洞窟からの脱出を試みた。けれど、その度に化物に見つかり命の危機に陥り、必死にまた洞穴に逃げ帰った。

 それを数度、数度試みた。けれど同化して気配を消しても、音を立てなくても、どういうわけか何かしらの怪物に見つかるのだ。


 そして、最後の脱出の挑戦から三日。

 そこから俺は絶賛引きこもり中だった。

 ここだけ聞いたら情けない奴だと思われそうだが、一つだけ言わせてほしい。


 そもそも俺はまだ転生して数日のバブちゃんだぞ!もっと優しくしろ!!


 生まれてから暗闇の中で身動き一つできずに放置され、やっと動けたと思ったら洞窟に転がり落ち、太ったと思えば洞窟が崩壊、その先には更に広い洞窟と化物たち。そんな連続で襲ってくる試練に耐えて生き残っていることを評価してほしい。

 もうすでに泣きそうな程度には追い詰めれているのだ。その辺は分かってほしい。


 だけど、ここで引きこもっているだけでは洞窟からの脱出なんて不可能なのは間違いない。けど俺が怪物と闘ったとしても勝率はほぼゼロだろう。この洞穴だって、今はたまたま見つかってないだけでいつかバレるかもしれない。

 だから移動はしなければならない。


 となると、やることは一つだった。

 強くなるしかない。あの化け物たちに負けないほどに強くなる。強くなって。


 


 情けないとは思うが、命をかける道理なんてないんだから、この方法が一番ベストだ。そういう結論にたどり着いたので、俺は今一人で修行をしている。

 何もせずにビクビク過ごすなんてのは性に合わないからな。

 やっていることは単純だ。


 簡単にまとめると。


 一つ。情報を収集し整理すること。

 俺は転生してから今までろくに情報を集められていない。その上、知っている情報を整理する時間すらなかった。知らなかったで死ぬ可能性すらあるのだから、ここは一旦落ち着いて俺にできることを増やす必要がある。

 そこで俺のできること、この世界のことなどを色々と試行錯誤したりして実験中だ。



 二つ。魔力操作と魔力制御の練度をあげること。

 身体が魔力で構成されている以上、この技術はきっと役に立つ。それに身体を動かすことにも魔力操作を使用しているんだから、自由自在に使えないと話にもならない。

 それに練度を上げれば精度も自ずと上がっていくだろう。そうすれば魔力の消費を減らせて行動も楽になり、行動範囲も自ずと増える。努力するだけ得なのだからやらない手はない。


 三つ。魔法への理解を高め、新たな戦闘方法を開拓すること。

 これが俺の一番の課題だ。現状のところ、俺が使用できるのは『炎』の魔法一つだ。これだけに頼ると相手に炎が有効じゃない時に完全に詰むことになる。それに手数はあればあるほど様々な状況で有利になるはずだ。


 四つ。魔力総量を増やすこと。

 様々な怪物どもを観察して発見したのだが、あいつらの能力は魔力の総量で変化している可能性がある。

 同じ種類の怪物同士の戦闘を見たんだが、魔力総量が多い怪物は少ない怪物を瞬殺していた。それはつまり魔力総量は戦闘力に直結している可能性があることを示唆している。

 俺の今の魔力の最大値は五程度。最悪でも巨大蜘蛛の百程度の魔力量にならないと戦闘になっても瞬殺されるだろう。

 それに何より身体操作にも魔法にも魔力を使うのだから、魔力総量が増えれば行動範囲も戦闘能力も必然的に上がると考えたからだ。

 

 とりあえず考えられる四つの課題をこなして、十分に強くなってから外に出ることにしたのだ。



          ◇◇



 最初に手をつけたのは情報を収集して整理することだった。


 まず一番わかっている自分のことをまとめよう。そう決めて、地面にステータスのようなものを書いていく。


 【俺:名前なし】

 魔力総量(戦闘力?):五

 性別不明、多分男?。記憶喪失。

 前世の記憶はないが知識は微妙にあり、

 謎の存在によって光る球に転生させられた。


 【使用できる能力】

 身体変化(光る、伸びる、太る)。

 魔力放出、魔力回復、魔力感知、魔力操作、魔力制御。

 

 【耐性】

 痛覚無効。


 【攻撃手段】

 炎魔法。

 

 ふむふむ、こうやって整理すると俺って本当に雑魚なんだなって再認識して泣きたくなるな。


 総魔力量が五って、戦闘力も五ってことだからね。多分この洞窟での最弱は俺だと自信を持って言えるレベルだ。

 まぁ、それはこれからの努力でなんとかしようじゃないか。

 俺は考えることをやめた。人生には考えてもどうしようもないことがあるからだ。べ、別に現実逃避なんかじゃないんだからね。


 そんなわけで、色々と試そうじゃないか。

 そうだな、まずは…。


(ステータス!!!)


 心の声が暗い洞穴にこだましたような気がした。

 すんごい恥ずかしいんですけど。

 ……けどなるほどな。やはりゲームみたいなステータスは存在はしないのか。

 それとも何かしらのアイテムやスキルがないと表示されないのかもしれないが、この世界にはステータスなんてのは存在しないと考えた方がよさそうだ。

 

 それ以外にもスキルやら魔法やらの取得時にアナウンスが入るとかもなかった。

 となると、レベルだの練度とかいう概念もないのか。ある程度の経験を積めば、勝手に強くなるとかも期待したんだけど、ないものを欲しがってもしょうがない。

 あくまでも自分の努力でしか強くなるしかないみたいだ。


 ……ん?

 待てよ。けどそれって逆に考えると、


 俺の知識ではスキルや魔法は元々の適正がないと取得できないものだ。

 けど、この世界はきっと適正なんてのがなくても努力でスキルや魔法は習得できる。つまりはどれだけ強くなれるかは自分次第なんじゃないか。


 あくまでも仮説にすぎないが、もしそうだとするならやらない手はない。

 やれることは全部やるんだ。無事に生きて地上に出るために!


 こうして俺の修行の日々が始まった。

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