第2話

 結論として、ただ待っているだけでは魔力は回復することはなかった。

 むしろ五感を再現しているせいで、魔力を消費し続けていることに気が付いた。

 なので現在は感覚を完全に遮断している。


(洞窟内には生物は確認できなかったし、多分安全だよね)


 そんな希望的観測で今はまた全てを感じない状態だ。

 動くことすらできないが、魔力を回復するために色々と試している最中ではある。何をしているのというと瞑想をしている。

 よく漫画などで瞑想することで、体内のエネルギーを回復したりしていた知識があったから試しているのだ。

 ただどれだけ集中しても魔力が増えることはなかった。

 しかし、代わりに体内の魔力の動きを認識することができるようになった。

 そのおかげで魔力操作の精度が上がったような気がする。


(ただそれでは問題は解決しない。あと試していないのは……)


 世界に溢れる魔力を俺の身体に吸収できないかだ。これは魔力の認識の精度があがったことで思いついたことだ。


 目には見えないが、世界には魔力が溢れている。

 魔力は全ての万物の持つエネルギーのことで、言い換えれば【命の源】だと考えられる。そして、その生命の源である魔力は死んだ時に世界に還元される。

 それを俺は暗闇空間で悟りに至ったことで知っているのだ。

 そこで逆転の発想だ。世界に還元されるはずの魔力を逆に、自分に吸収することができるんじゃないかと考えたのだ。

 体内からが無理なら、外から補充すればいいじゃないかというわけだ。

 

(しかし、その方法がわかんねーんだよ)


 体内の魔力の操作はできる。

 なら体外の魔力もできるはずなのだが、世界に溢れる魔力はかのように言うことを聞かない。

  多分だが、体内の魔力の操作と体外の魔力の操作では技術が別物なのかもしれない。体内の魔力は『操作』で体外の魔力は『制御』するというイメージだ。

 体内の魔力は自分の身体の一部だから自由自在に扱えるが、世界に溢れる魔力はあくまで世界のものだから『何かしらの法則』のもとで制御しなければならないのかもしれない。


(制御ができないのは俺の魔力ではないからなら、世界の魔力をどうにかして俺の魔力に変換できれば吸収だってできるはずだ)


 俺の魔力残量は残りわずかだが、行動しなければ何もはじまらない。

 俺はさきほどの説を検証することにした。

 まず体内の魔力を操作して、身体の外に出す!!


(うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!でろぉ!!!でろぉ!!!!!)


 イメージだ。魔力の操作にはイメージが重要になってくる。

 身体から魔力を溢れ出させて、世界の魔力を覆うイメージ。

 それをできるまで頑張る。もう努力以外にできることはない。

 しばらく気張っていると、


(でたあああああああ!!!)


 魔力がわずか身体から溢れだした。

 もう魔力は無駄にはできない、ここから更に世界の魔力を覆って、すぐに俺の魔力を混ぜる。なにかがあるがやるしかない。気合と根性、精神面では俺に叶うと思うなよ。

 俺は暗闇空間にも打ち勝った男おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 そして、頑張ること数分。


(よし!!! 混ぜることができた!!!!)


 無事に世界の魔力に打ち勝った。

 あとは体外の魔力を再び身体の中に引き戻すことが出来れば。


(な、なんか身体の奥が熱い!! これで…………。うおおおおおおおおおお!!! やったぁ!!! 魔力が回復してる!!!!)


 洞窟内にできた水溜りに移動し、確認すると身体の大きさも元に戻っていた。

 あとはこれを繰り返すことで体内の魔力を総量を増やせれば、魔力の枯渇はなくなるも同然なのでは!?

 俺は天才的閃きをすぐに実行するために動き出した。

 そして、しばらく魔力の吸収を頑張っていると。


(デブった)


 ぷよんぷよんである。

 身体が小さくなった次は、身体がぽよんぽよんになって動けなくなった。


(もうやだこの身体あああああ!! 食べたら食べた分太るなんて吸収率良すぎですぅうううううう!!!)






 それから体感1時間が経過した。

 身体はだるんだるんとなり、相当な量の魔力を操作しなければ動けないほどとなっていた。

 

(…………色々と噓だと言ってくれ)


 魔力の枯渇で死にかけたと思ったら、次は魔力を吸収し過ぎて動けなくなるなんて誰が思うんだ。一歩進んで三歩下がっている気分である。

 とんだ間抜けだ。人がいたら笑われていたことだろう。


『くすくす』


 こんな感じで。そんなに笑われたら恥ずかしくて、ん?

 なんだ、なにか変な声が聞こえたような気がする。

 だが、周りを見ても誰もいない。誰かいるのか、こんな場所に?

 天井から地面の隅まで視線を向けて、一応魔力も見てみたが何一つとして異変はない。どうやら幻聴が聞こえるようになったようだ。終わっている。


 しかし、今の幻聴で疑問に思ったけど。

 俺はここに来てから自分以外の生物に遭遇していない。それは願ったり叶ったりではあるのだが、さすがに心細くなってきた。

 そもそもこの場所がどこなのかもわからないし、人が存在するのかもわからない。

 ずっと分からないことや困難の連続だ。もう正直つかれた。あと寂しい。

 何かしらの変化や、何かの痕跡くらいは見つけたい。前に進む原動力がほしい。


(そうだ、というか誰か現状を説明してくれ!! もし転生させられたのなら、転生させた奴には説明責任がある!! ずっと放置されてどうしろってんだ!!)


 流石の俺も激おこだ。

 俺が記憶喪失な理由や、光球である理由。深くツッコムのなら生きている理由を教えてほしい。だが、そんな風に起こっても誰も反応してはくれない。

 創作のように誰かが手を貸してくれるなんてのは現実ではそうそうないんだなと実感した。

 とりあえず動くことにしよう。こんな洞窟で立ち止まってても何にもならない。

 そろそろ陽の光が恋しいんだ。

 そうだ。とりあえず洞窟から脱出することを目標にしよう。

 小さな目標だが、何も指標がない状態で動くのよりはましだ。


 俺は無理やりに動く理由をつくった。

 ならまず、この身体をどうにかしようじゃないか。

 覚悟を決めるまでが遅いのが俺の悪いところだが、逆に決めしまえば行動が早いのがいいところだ。


(魔力の吸収のし過ぎで太ったのなら吐き出せばいい)


 久しぶりに感じた怒りの感情に任せて、俺は体内の魔力を全力で吐き出す。

 そう何も考えずに身体が丁度いいくらになるまでだ。

 しかし、どれだけ吐き出しても身体は一向に小さくならない。

 俺が吸収した魔力はそんなに多くなかったはずなのに。


(はぁ、はぁ。もうこの洞窟の中ほとんど俺の魔力で充満したぞ)


 周囲にあったはずの魔力は、洞窟内が俺の魔力とでも言えるほど満ち満ちていた。身体の中に洞窟があるみたいな感覚だ。気持ちが悪い。

 それに魔力から伝わる情報量が多すぎて、何が何だか分からないし。

 多分人間の身体だったら脳が焼き切れるであろうほどの情報が流れている。

 よかった、痛覚とかなくて。


(なにが何だか分からないけど。何となく洞窟の構造は分かった……気がする)


 本来の目的とは違ったが、これは使えそうだ。

 ただ今はどうしようもないから放置する。まず大切なのは、俺の身体をスリムにして動きやすくすることだからだ。


(魔力を吐き出したら元に戻るわけじゃないのなら、どうして俺の身体は一度小さくなったんだ? もしかして、吐き出すのではなくて『使った』から減ったみたいなことか?)


 そうだ、俺の身体は『魔力』で構成されている。

 体内の魔力を操作することで、身体を動かすという結果を得ている。

 なら魔力操作の際に『結果』を得るために魔力を消費していると考えるのが自然だ。魔力を吐き出す行為は、何かしらの『結果』を得るための行為じゃなかったから消費されなかったんじゃないか。

 いや、けどそれだと魔力を洞窟に満たすことで『情報』を得たのだから、魔力が消費されないのはおかしいか。

 もうわからないよ!!頑張って考察してるけど、俺はそんなに頭がよくないんだ。

 もういい。わからないし、いつも通り行動しよう。

 馬鹿は足で結果を得るものだ。俺は今までで一番集中する。

 

 (体内の魔力を操作し、体外に放出。それを制御して消費することで、何かしらの『結果』を得るか。それって【魔法】とか【錬金術】みたいだな)


 知識にある魔法は魔力を消費して、何かしらの『結果』をもたらすものだ。

 なら、俺がやろうとしていることも同じようなものじゃないか。

 そもそも魔力があるのだから、魔法があってもおかしくはない。


(魔力の操作や制御はイメージすることで出来た。なら【魔法】も同じのはずだ)


 そう大切なのはイメージだった。

 なら自分の中で魔法のイメージを固めよう。


(俺の中の魔法のイメージとはなんだ?)


 とてもすごいものだ。ちがうな、具体にだ。

 この世に存在するはずのない、奇跡?のようなものだ。


(この世に存在するはずのないものとはなんだ?)


 無から有を生み出すこと。

 万能の理。

 神のような力。


『そうなんだ。ならやってみるといい』


 俺の声ではない声だった。

 けど、不思議とその声に恐怖も疑問もいだかなかった。

 そして、俺はイメージを具現化する。


(【炎】)


 魔力が想像した【魔法】に変換されて、世界に顕現する。

 ただそれは俺がイメージしていた以上のものだった。


 ドンツツツツツツツツ!!!!!!!!! 


 放たれた炎は一直線に飛び、10メートルほど先の岩に当たると大炎となった。

 着弾と共にけたたましい轟音が響き、岩を消炭とするほどの炎柱が上がった。


(ええええええええええええ!! 出来たけど待って!!! すんごいことなってるんだけど!!!!)


 俺は魔法が使えたことの喜びより、目の前の光景に驚いてしまった。

 その瞬間、俺の身体は謎の浮遊感に晒された。

 

(へ?)


 立っていたはずの地面が崩れて、いや洞窟自体が崩壊したのだ。


(えぇえええええええええ!?!?ちょっ、ま)


 光球人生において二度目の奈落へのノーロープバンジーである。

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