第8話 森の教会
森の中、突然、
そこにあるのは、小さな教会……?
レオンがその前で尻尾を振っていた。
「もう、レオン、ビックリさせないでよ」
僕は建物を見上げた。三角屋根の上に十字架がある。
「こんなところに教会があったんだ。知らなかった」
何度もまるやま湖に来ているけど、はじめてだった。
そーっと近づいてみる。扉は閉まっていた。
普通、教会って、いつでもオープンしているんじゃないのかな。
耳を澄ますと、何かメロディが聞こえてきた。
オルガンと、誰かの歌声……どこかで耳にしたことがある、讃美歌?
扉に手をかけると、簡単に開いた。レオンが扉の隙間から、スルッと中に入ってしまった。
「あっ! コラッ!」
隙間から覗いてみる。
胸がドキン! とした。
オルガンを弾きながら歌う少女。ステンドガラスを通して、差しこむ光。
まるで……精霊の使い?
今、夢中で読んでいる本の中にでも、出てきそうだ。
足元にすりよったレオンに気がついて、彼女は演奏を止めた。
「誰……?」
レオンの頭を撫でて、立ち上がり、こちらを振り返ったのは、よく見ると普通の女の子だった。
「あれっ?」「あっ!」
ふたりの声が重なった。
「星野くん?」
「水野さ……違った、橘さん、だよね?」
驚いた。同じクラスの橘さんに、何故こんな場所で会うのだろう。
「パパはこの教会の牧師なの」
「そうなんだ。勝手に入ってごめん。犬は大丈夫?」
「大丈夫。教会は誰でもいつでもウェルカムの場所だから」
「扉が閉まってるから、お休みなのかと思った」
橘さんはクスリと笑って、扉の脇の張り紙を指した。
『虫が入ります。扉は閉めてください』そう書いてある。
「この子は星野くんの犬?」
「あー、違うよ。おじいちゃんとおばあちゃんの犬。近くに住んでて、僕、遊びに来てるんだ」
「ふーん。名前は?」
「……旅人」
「え?」
橘さんの目がまんまるになって、それから吹き出した。
「あはは。違う、違う。星野くんの名前なら、私、知ってるし。この子の名前」
僕は赤面した。何という勘違い!
「……レオン」
「そっか。君はレオンというのね。よろしく、レオン」
レオンは尻尾を振っている。
「私、思うんだけど、星野くんの名前って、カッコいいよね」
え……?
「アニメに出てくるみたいな名前って思わなかった? 『 星の
「そうかなぁ」
「母さんが子供の頃、大好きだったアニメがあるんだって。銀河鉄道で旅する話」
「もしかして、機械の身体を探す物語? 私、観たことあると思う」
「よく知ってるね。もう少しで、鉄郎という名前になるところだったけど、父さんが必死に止めたんだって」
橘さんはまたクスクス笑いだした。
「星野くんのご両親って面白い」
「でも、母さんが好きなのは、主人公の少年じゃなくて、車掌さんのキャラクターだって言うんだから、もうわけわかんないと思わない?」
「可笑し過ぎる!」
橘さんって、こんなによく笑う子だったんだ。
でも、教室では……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます