第7話 森の中

 元ペンションだから、部屋には余裕があって、僕専用の部屋もある。

「ここは旅人の別宅だからね〜」

 母さんは笑う。


 野原村ペンションビレッジは、清国ブームの頃にできたから、建物はもう古いものが多い。

 放置されたまま崩れかけた空家を見るのは哀しい。空き地も多い。新しく移住してくる人達もいるから、建て替え中の場所もあって、いつもどこかで工事しているって印象がある。


 すぐ前には大きな公園がある。広い「六ヶ岳自然公園」の中には、プラネタリウム、フィールドアスレチック、グラススキー、ディスクゴルフなどたくさんの遊べる施設があって、ドッグラン(有料だけど)もある。

 公園内は自由に入れるから、犬のお散歩に良いけど、ペット禁止の芝生エリアがあるから気をつけないといけない。


 僕はこの公園よりも、その奥にある「まるやま湖」が好きだ。


 湖という名前だけど、実際は農業用の溜池ためいけで、そんなに大きくはない。沼、または少し大きな池という感じかな。

 公園の方からここまで来る人はあまりいなくて、いつも静かだ。


 僕が好きなのは、ここから見える景色なんだ。

 鏡のように水面が静かな日に、湖面にうつる、六ヶ岳連峰の山々。高い青空に浮かぶ白い雲。鳥の声。


 それから、夜になると星が良く見える場所として、最近、マニアの間では有名になっているらしい。


 散歩が大好きなレオンと一緒に来て、湖のほとりのベンチに座る。長いリードをつけたレオンは、僕の足元で丸くなって休んだり、辺りのニオイを嗅ぎまわり、探索を楽しんだりする。


 本を読んでいた僕は、レオンがじっと駐車場の向こう側、森の方に注目していることに気がついた。


「レオン、どうしたの?」


「ワン!」

 レオンが大きく吠えて走り出した。リードがドンドン伸びて、引っ張られて、結んでおいた僕のバッグが地面に落ちた。


「あっ! レオン、待って!」


 ピーンと伸びたリードが首から外れて、レオンはそのままの勢いで森の中に飛び込んで、行ってしまった。


 ……大変だ!

 僕は転がった荷物を拾い集めると、急いで追いかけた。


 確かこのへんだと思ったんだけど……?


 レオンが入っていった場所がよくわからない。


 あれ? コレって……?


 よーく見ると、小さな立札があった。「森の教会」と薄い文字が読める。矢印が指しているのは、見落としそうな細い道。

 僕はそこへ分け入った。


 樹々の木漏れ日がさす森の中、クマザサが生い茂る地面に、奥へと続く細い道が続く。


 これって獣道けものみちじゃないのかな。まさか、熊とか出ないよね。


 「レオーン! どこ〜?」

 「……ワン……ワン」


 遠くからレオンの吠え声が聞こえる。

 僕はドキドキしながら、さらに道を奥に進んでいった。



 

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