学校でもお友達!(前編)

 記念すべき初のお友達、アメリアと二人目のお友達、看護師のエリスと出会った病院から退院したのはこの世界で目覚めてから1週間後だった。


 元々、外傷もなく検査でも特別に異常が無いのでまあ当然と言えば当然だ。

 私としても、病室にずっと居たのでは目新しい情報も仕入れられないので、歓迎するところ。


 そして、退院後にグリサリデの街を歩いてみて、改めて自分が完全に地球ではない別の場所に来ていることを実感させられた。


 最初は中世ヨーロッパに時間移動したのでは、とも思ったが中世時代にドラゴンなど居ない。

 そして、魔法によって手から氷や炎を出す事もない。

 これは、信じがたいがアンダーカヴァー(敵対組織への潜入)の訓練の際に学習した「ファンタジー」の世界そのものだ。

 理解しがたい……そうそう、理解と言えば、なぜ私がこの世界の言語を話せるのか? もあるが、まあそれは追々究明すればよい。


 今はそれよりも最も重要な事……友達を沢山作る事だ。

 そして、今日はその重要な一歩……学校に通うのだ!


 ああ、胸躍る。

 ワクワクしすぎて、8時間しか寝れなかった。


 はやる心を抑えつつ日課のランニングから我が家に帰った私を、父親のロブは驚いた顔で出迎えた。


「お帰りミア、朝からどこに行ってたんだ!?」


「決まっているだろ。朝の訓練……」


 おっと、いかん。

 どうやらもともとのミア・デニーロはお淑やかで気の弱い、口調も上品な女の子だったらしい。

 あまり不信感をもたれては今後の潜入工作継続に支障が生じる。

 可愛らしく、おしとやかに、そして気弱に……


「ゴメンねパパ。学校が楽しみすぎて町の周りを走ってきたの。で、オオカミさんが襲ってきたから首を落としちゃった! 怖かった~」


「は、はは……ミアは、相変わらず冗談が……好きだね」


 ぬ? 冗談ではないが……まあいい。

 

「あ、朝ごはんハムエッグなんだ!? パパ、大好き!」


 倒れる前のミアはハムエッグが好物だったらしい。

 

「ありがとう。なんとかママの味に近づいたかな? まだまだだけどね」


「そんな事無い。ミア、パパのハムエッグは一番大好き!」


 どうやら、ミアの母親は4年前に病で亡くなったらしい。

 それからはロブが男手一つでミアを育てて、生活費や今日から通う比較的名門の初等学校の学費もまかなっていると言う事だった。

 冒険者ギルドの事務主任をしているようで、いつも帰りも遅い。

 頑張っているのだな……

 この世界との唯一のつながりでもあるし、少しでも助けてやらねば。


 そう思いながらハムエッグを食べ終わり、教科書や筆記用具、そして自作の武器を数本。それらを再確認する。

 もうそろそろか……

 私は緊張のため深く息を吐いていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

「ミアちゃん、学校いこ」


 来たな、アメリア。

 私はロブに笑顔を向け、ぺこりを頭を下げた。


「行ってくるね、パパ」


「ああ、無理ないようにな。君なら大丈夫、緊張しすぎないように」


「うん! 絶対、新しい友達を確保してくるね」


 ※


「大丈夫、ミアちゃん? 久々だから無理しなくてもいいからね」


「うん、平気だよ。有難う。でも、確かに楽しみすぎて昨日はあまり寝れなくて……」


「え、大丈夫!?」


「何とか。でも、かなり疲れてたみたい。今朝なんてたったの15キロしか走れなくて。オオカミも襲ってきたけど、倒すのに30秒もかかっちゃったんだ……」


「へ、へえ……ミアちゃん、面白い……ね」


「え、ホント!? わあ、友達からそんな事言われるなんて嬉しい!」


「うん、私もミアちゃんが笑ってるの、嬉しい。ところで……ホントに大丈夫? あの……強がらなくていいからね! 私が絶対守ってあげるから」


 ぬ? 何か気になる言い方だな。


「どうしたの? なんか、ミア……私が怯えてたみたいな言い方だけど」


「え? ミア、それも忘れちゃったんだ」


「それって……」


「あ、ううん! なんでもない。とにかくミアは私が守ってあげるから」


「もしかして私、学校で危害を加えられてるとか?」


「え!? ち、違うよ……」


 アメリアの視線……右上を頻繁に見ている。

 と、言う事は事実を隠そうとしている。

 ふむ……


 私は口元が緩むのを抑え切れなかった。

 面白そうだ。


 ※


 ミアとアメリアが通う、パルデア初等学校は6年制の学校で私たちは5年生。

 貴族の指定も通う名門だが、末端貴族の娘であるアメリアはともかく、ミアの家みたいな一般家庭の子供は少数派だ。

 だが、ミアは勉強熱心でその成績を認められて奨学生扱いで学費も半分を援助されていると。

 ふむふむ、感心だな。

 私の体にふさわしい。

 だが、そんな経歴のミアがなぜ学校では成績が低いほうなのだろう?

 名門のレベルに着いていけてないのか?


 まあいい。

 いずれ分かるだろう。


 学校の校舎は曲線と様々な色彩のガラス、そして城の壁を組み合わせた芸術性高いもので、どこかイタリア建築を連想させ、イタリア好きの私の心を浮き立たせた。


 ここで、私の学園生活が……始まる!

 夢に見た「学生」に!

 先生や学友と学び、運動し、時には旅行に行き、学園祭や体育祭……ああ、興奮が鎮まらん!

 そして、ここで必ずや友だち100人作ってみせる!


 そうして意気揚々と教室に入るや否や、私はクラス中から目を向けられた。

 ふむ、久々に復帰したクラスメイトが気になるのか。

 

「ねえ、アメリア。私の机はどこ? ああ、早く勉強したい!」


 すると、横から笑い混じりの声が聞こえた。


「あなたなんて勉強する必要ないんじゃない?」


 声のほうに目を向けると、そこには腰まで伸ばした紫に近い髪色の少女が嘲笑するような表情で立っていた。


「ミア・デニーロ。退院おめでとう。でも、どうせならこのまま退学すればよかったのに。ここはあなたみたいな貧乏な家の子を養うような貧民院じゃないのよ」


 そう言うと、隣の短髪の男の子と共に、クックと笑った。

 ほうほう。

 これはこれは……


 今、私が体験してるのは……もしかして……


「ねえ、ルイーズ、シャル。いい加減にしなさいよ! ミアが倒れたのってあなたたちがそうやって……」


 二人に食って掛かっているアメリアの手を握って私は言った。


「ねえ、アメリア。私って……もしかして、苛められてる?」


「そう……よ。でも、大丈夫! 絶対、私が守ってあげ……」


「嘘でしょ! これって青春だ……良くマンガで見た奴! 主人公の少女が悪役やってる不細工であまり賢くなさそうな子達に、嫉妬から理不尽に苛められるけど、それにもくじけず仲間を増やしてくって奴。そう見ると、あなたたち悪役にピッタリね! うわあ、信じられない……よろしく!」


 そう言うと、二人は見て分かるくらいに怒りで顔が真っ赤になった。


「ミア・デニーロ。あなた、病気になってから冗談も言えるようになったの?」


「面白かった? 良かったあ! ね? ね? 次はどうしよう。やっぱり可愛そうな感じにしたほうがいいよね。じゃあ……」


 私は怯えたような表情を作り、か細い声で言った。


「怖い、なんでそんなひどい事言うの……ミア、泣いちゃう。……ねえ、アメリア。こんなんでいいかな?」


 すると、隣のシャルといわれた男子が私に向かって手を振り上げようとしたので、避けたが懲りず何度も私を叩こうとするので、避けるのが面倒になっていた。


 う〜ん……


「ねえ、いい加減にしなさいよ! ミアは喧嘩とかダメな子なの! 代わりに私が相手してあげる」


「あらあら、血の気の荒い子だこと。ねえ、あなた本当に女の子なの?」


「確かめてみようか?」


 ルイーズの言葉に、シャルがニヤリと笑うと、突然アメリアのスカートを思いっ切りめくり上げた。


 え?


 アメリアは呆然とすると、そのまま涙を溢れさせ、その場にしゃがみ込んだ。


「あ、やっぱり女だったじゃん……って、何だよミア・デニーロ」


 私は無言でシャルのその手を掴んだ。


「な……え? 手が……動かない」


「腕を捻って稼動側を上に向けてるから、絶対に無理。……私の友達を泣かせた罪は万死に値する。ねえ『イジメられてるゴッコ』楽しかったわ。今度はあなた達の番ね」


「はあ?」


 と、シャルと言う子が言った直後、私の蹴りがシャルのお腹に当たり、近くの机を数台薙ぎ倒した。


「もう気絶したの。つまんないの……じゃあ次はルイーズだっけ?」


「な……なによ、コイツ」


 ルイーズは慌てて逃げようとするが、私はすぐに追い付き、ルイーズの腕を掴むとそのまま一本背負いして、眼の前の机の上に叩き落とした。


「ひ……ひ……助け……」


 すっかり怯えきっているルイーズの髪の毛を掴み、私は言った。


「人に攻撃するなら、自分がされる覚悟を持つ。当たり前の事でしょ。それすら出来ない小物が生意気に攻撃するな。今度、私の友達に危害を加えたら、今度は……骨を砕く。分かった? お子さま達」


「ミア……」


 呆然とするアメリアに私はニッと笑った。


「友達の危機を救い、悪党に制裁を。これって、青春だよね!」


 そう言ってると、教室の雰囲気ドアが開き、深く……だが圧倒的な異熱燗を持つ声が聞こえた。


「この騒ぎは何だ」


 コイツ……


 私はさっきまでのリラックスしていた筋肉に力を加えた。

 なんだ、コイツは。


 男の方に目を向けると数冊の本を小脇に抱え、棒を持った30過ぎらしき男性が立っていた。

 私が……気付かなかった?


「これは誰がやったんだ?」


 男の問いに私は歩み出た。


「貴方が誰かは分かりませんが、この事態は私が引き起こしました。ですが理由が……」


「ミア・デニーロ。貴様は退学だ。今すぐ教科書やその他の用具を持ち、出ていけ」

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