第67話

リビングのソファに座ると緋音が引っ付いてきた。

家にいるときは、くっついていたのだろうか?

あれ?ツーリング中も抱き着いていたから今日はそういう日…なのだろうか。

俺達の前には、緑茶の入った湯呑が並べて置かれている。

そして、秋葉山で買ってきたお土産が広げられていた。

お土産だけど、人にあげるようではなく自分用のお土産だったようだ。

黄金らすく…全体的に黄色のラスク。

三ケ日みかんを使用している為、そのような色になっているようだ。

要は、シュガーラスクである。

浜松でラスクと言えば、モンターニュやヤタロウだろうか。

秋葉さん最中…紅葉もみじの形をした皮が特徴の最中。

春野の和菓子屋さん・月花園の最中である。

秋葉まいり…チョコクランチラスク。

ご利益きな粉茶団子。

粉末緑茶とヨモギの餅生地で餡子を包み、ふんだんにきな粉を塗した団子である。

トレーの窪みに4つずつ入っているが、きな粉が凄くて零れそうだ。

ちなみに、24個入り…細長いトレーで8個の窪みがある。

期限は3か月と長い割に開けたらすぐ食べたほうがいいと思ったのはこの団子だけかもしれない。

特に、今回のお土産たちの中では。

団子は、小皿によそってから食べている。

そうしないと、散らかりそうなので。

緋音は、幸せそうな表情でお菓子を頬張り、お茶を啜っていた。


「はぁ、美味しい」

「秋葉山でこんなにお土産物帰るとは思わなかったよ」

「うん、私も思わなかった」


小皿を口元まで寄せながら小さなスプーンで団子を食べている。

俺は、秋葉まいりを頬張る。

カリッと音を鳴らせるとがっつり甘いわけではないチョコレートの風味が口の中に広がる。

これは、普通に止まらなくなりそう。

ラスクって割と無限に食べれるよなぁ。


「あ!慎くん明日は買い物行こうか」

「そうだな…あ、髭剃り買わなきゃ」

「…髭」

「ん?どうしたの?緋音」


緋音は、俺の顔をまじまじ眺めている。

やがて、うんうんと頷く。


「ねぇ、慎くん。髭脱毛してみる気ない?」

「髭脱毛?」


興味がないわけではない。

髭なんてないほうが楽だ。

特に、毎日髭を剃る社会人としては。


「痛くない?」

「ちょっとだけ痛いかも」

「ちょっとかぁ…」

「慎くんがやってみたいというなら私がやってあげるよ」

「え?」


髭脱毛ってそんな手軽に出来るものなのか?

俺の頭には、?マークが乱立していく。


「えっと、私。前は、エステ関連のお仕事してたの。

その時に、資格を取っていて。

今もその関係で美容系の会社をしてるんだよ」

「なるほど…じゃあ、お願いしようかな」

「うん、任せて」


緋音は、満面の笑みを浮かべていた。

俺の知らない『緋音』がまだまだあるんだと思った。

まあ、20数年。

それは仕方のないことだ。

寂しいことだけど、その反面嬉しくもある。

だって、これから知ることができるのだから。

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