第65話

俺達は、秋葉山を後にすることにした。

緋音がタンデムシートに座ったのを確認するとギアをニュートラルから1速に落としスタートさせる。

結局、お土産はサイドバッグ両方に無理くり詰めた。

合羽を両方に分配して隙間を作ったのだ。

駐車場も濃霧でほとんど見ることができない。

ライトをハイビームにして、ゆっくりと走行することに。

坂道の為、速度は上がる。

ほぼ、3速走行になりそうだ。


『慎くん、先見えないね』

『うん、これはちょっと慎重に行かないとな』


道自体は、頭の中に入っている。

昔、幾度となく来たしあまり変わっていなかったのは行きで確認している。

それでも、不測の事態と言うものもあるかもしれないからそこは慎重に走行するしかない。

ギリギリしっかりと見えるのは、1mほどだろうか。


『見えないのがこんなに不安だとは思わなかったよ』


そう言いながら、俺に強く抱き着いてくる。

確かに、ちょっと怖い。

そうしていると、前方に軽トラックのバックランプが見えた。

これで、少しは安心できる。

結局そのあとは、ゆっくりペースで下山をしてスーパー林道の入り口の豆腐屋さんのところまで下りた。

その頃には、視界が晴れた。


『慎くん、お疲れ様』

『うん、流石に霧の中走るのは神経使うな』

『帰ったらマッサージしてあげるね』

『それは、助かる』


俺達は、それから元来た道を戻っていく。

長いトンネルを越え、橋を潜ると右手に再びダム湖が広がっていく。


『わぁ、慎くん。凄いよ』


緋音が、急に声を上げた。

俺は、その声に周囲を見渡す。

ダム湖に、靄のようなものが掛かっている。


『ああ、湖上霧か』

『湖上霧?』

『冷たい空気が暖かい水面の上を吹き込むと、水面から蒸発した水蒸気が冷えて、ああやって霧になるんだよ。

確か、水温と気温の差が約8℃程度だとなるんだったかな』


さっきの霧もその影響だったんだろうな。

昨晩未明に一時的に降った雨がきっと原因なのかもと思った。

俺達は、幻想的な風景を眺めながら帰路に就いた。

ダム湖を越え、船明ダムを横目にするともう霧を見ることはなかった。

自宅へと戻ったのはそれから30分ほど経った頃だった。

専用の駐輪場に、バイクを停める。

スタンドを立て、車体を安定させると緋音がバイクから降りた。

俺も、バイクから降りる。


「慎くん、お疲れ様」

「緋音もお疲れ様」


俺達は、荷物をサイドバッグから降ろすと自宅へと戻るのだった。

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