第55話

『あれ?このトンネルこんな明るかったっけ?』

『あ!そういえば、そうだよね。昔は、暗かったイメージが』


昔は、殆ど明かりがついていなかったが今は等間隔に白い明りがトンネル内を照らしている。

だから、昔はこのトンネルが怖かった。

中央線が見えず、対向車とすれ違うのが怖かったのだ。

今は、かなり安心して走れる。


『前は、怖かったよね』

『緋音も、そう思ってたんだね。

俺も、怖かったんだよね』


やがて、トンネル明りよりも明るい光が見えた。

それは、徐々に近づいていきトンネルを抜ける。

やがて、交差点が見えて来る。

ちょうど、ここを右折するとスーパー林道の入り口になる。

交差点には、赤い鉄骨の橋と両サイドに大きな灯篭が設置されている。

右折して、橋を潜ると一時停止があった。

俺は、停車し左右確認をする。


『水窪ダムまで行けるって』


ちょうど、正面にはスーパー林道の状況が掲示されている。

「落石注意」と「水窪ダムまで行ける」と言う表示が出ていた。

時期によっては、秋葉神社より奥に行くこともできなくなる。

降雪による通行止めであり、12月下旬から3月までは通行規制となる。


『流石に、行かないかな』

『落石怖いもんね』

『取り敢えず、秋葉山まで行ったら戻ってこよう』

『うん、あ…豆腐屋さん』


交差点の右手には、昔ながらのお豆腐屋さんがある。

豆腐も油揚げも美味しい。

昔、よく親父にお使いを頼まれたものだ。


『買って帰る?』

『うーん、今日はいいかな』

『そっか、今度来るときは保冷バッグ持参しようか』

『それがいいね』


流石に、サイドバッグに入れて持ち帰りはちょっと崩れたり熱で痛みそうで怖い。

俺は、一時停止から前進してスーパー林道天竜線を走行していく。

最初は、住宅が道の両サイドにあったが直ぐに疎らになりやがて、林道へと変わっていく。

鬱蒼とした杉が、日光を遮っていく。

さっきまでと違って、湿度が増し一段と冷えるのを感じる。

それでも、どこか心地いい。


『森林浴って感じだよね』

『確かに』


俺は、上がらない速度にギアを下げる。

5速では、無理。

4速も、ちょっときつい。

3速なら…うん、行けるな。

俺は、3速で林道を進む。

小さな石造りの橋を渡り、やがて左カーブが現れる。


『緋音、しっかり掴まっていてね』

『うん』


ここが、最初の難関。

急カーブとヘアピンだ。

最初のカーブを曲がり切った時。

ちょうど、対向車が現れた。

車体を戻し、擦れ違う。

そして、今度は急な右カーブ。


『はぁ、ちょっと怖かった』

『対向車。急に出て来たよね』


なかなか、速い速度で下りの対向車が降りてきていた。

ここから先も対向車はあるだろう。

俺は、安全運転で慎重に行こうと決意した。


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