第54話
花桃の里を出てもしばらくは、左手にダム湖が広がる光景を視界に移しながら走行していく。
暫くは、道なりで代わり映えのしない風景が続く。
『そう言えば、この辺りキャンプ場が出来たらしいよ』
『へぇ、キャンプ場』
『何年か前からキャンプブームだからね』
『そうなんだ。暫く海外だったから知らなかったよ』
『海外?』
俺は、緋音に海外に行っていた事を話していなかったようだ。
確かに詳しい話をしたことはなかった気がする。
『離婚してから海外に6年飛ばされたんだ、その後日本に戻ってきて入院してたんだ』
『もしかして、慎くん外国語も得意?』
『ほどほどには、流石に6年も生活していたら自然とね。
まあ、元々大学時代は専攻もしていたから英語、イタリア語は大丈夫だよ』
『なんでイタリア?』
『ん?ああ、イタリアにいたんだよ。あ、フランス語も多少は大丈夫かな』
俺は、イタリアに飛ばされていた。
偶に、フランスまで足を延ばすこともあった。
貿易雑貨の会社だった為、各地に支店があるらしい。
元義実家は、割と大きな会社だった。
まあ、管理はかなり杜撰で労働環境はブラックそのもの。
『じゃあ、そっち方面も頼りにさせてもらおうかな』
『ああ、俺に出来る事なら何でも言ってよ』
『なんでも?』
緋音の驚いた声が聞こえた。
「なんでも」は、言い過ぎたかもしれない。
『出来る事だけだからね…まあ、緋音の期待には応えたいけど』
『うん、ありがとう』
やがて、正面に大きな赤い鉄筋の橋が見えてきた。
ダム湖は此処で終わりである。
『あ、横山だね。確か、此処を入ったところにキャンプ場があるんだよ』
『へぇ、こんな所に』
橋を潜る手前に脇道があった。
そこに、キャンプ場の看板を見つけた。
『OGAWA NO SATO CAMP SITE』と書かれた看板だった。
多分、これの事だろう。
橋は、確かに赤いが所々に錆が目立ち歳月を物語っている。
橋を潜ると信号があるY字路である。
そこは、右手にガソリンスタンドのあった。
俺は、そのY字路を道なりに右へ進む。
左に行くと『
熊には、道の駅 くんま水車の里がある。
鹿肉カレーや舞茸天ぷらそばが美味しかった記憶がある。
あそこに行ったのは、バイク取り立ての頃なので道の駅自体整備されたばかりの頃だったと思う。
『熊の道の駅ってまだある?』
『あると思うよ、私もなかなかこっちまで来ないから知らないけど』
『そうだよな』
『舞茸の天ぷらと鹿肉のカレー美味しかったよね』
『うん、俺もそれを思い出したんだよ』
右手に天竜川が流れている。
やがて、正面にトンネルが見えてきた。
このトンネルを越えるとスーパー林道の入り口である。
ただ、このトンネルが長い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます