第44話

「差し当たり、慎くんのスマホが必要だよね…うーん、本体はそのままで番号SIMだけ変えちゃう?」


番号を変える?

まあ、変えても問題はない気がする。

今連絡が来るのは、清明と緋音くらいなものだ。

変えても困ることはないな。


「それもいいかもしれないな」

「ふふ、じゃあ事務で社用スマホのSIM貰ってくるわね」


そういって、緋音は社長室を出ていった。

社用スマホ…か。

いいのかな?

あれ?俺のスマホが無くなってる。

緋音が持って行ったのかな。

まあ、電源も落としてあるし問題はないか。

見られて困るものもないしな。



やった!

これで、慎くんの電話帳の1番は私の物だよ。

清明くんは、2番目位でいいよね。

私は、社長室を出て再び事務所へと向かった。

そして、財部 深月の元に向かう。


「あ、社長。萩岡さん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫…一応」

「一応?」

「あとで、ミーティングをするから部長各位に連絡しておいて」

「えっと、オフラインですか?」

「内々で行いからオフラインで」


慎くんの個人的な話が含まれるから他の子たちにあまり聞かれたくない。

ミーティングは、防音もしっかりしているしこの隣にある。

オンラインではできない話をするときに利用する。


「その旨は、私から連絡しておきます」

「よろしくね、それと社用スマホのSIM貰える?」

「萩岡さん用ですか…それなら社長のプライベートスマホとペアリングにした方がいいですか?」

「あ!それでいいかも」


実は、深月ちゃんはこの会社で唯一の携帯電話販売代理店との窓口だったりする。

元々、大手携帯ショップに勤めていたこともありノウハウを生かしてパイプを築いた。

深月ちゃんの副業とも言える。


「では、社長この中々選んでください」


彼女は、電話番号の印字されたカードを取り出して並べている。

番号の違い…実際どれでも大差ない。

あー、でもこの辺なら私の番号に近いかも。

私は、並べられたカードから1枚選ぶ。


「じゃあ、これで」

「はい、この番号設定しときますね。

本体はどうします?」

「本体は、元々慎くんが使っていたのを使うんだけど…別で一台借りたいかな」

「?わかりました、本体預かりますね」


私は、深月ちゃんに慎くんのスマホを渡す。

さて、元嫁さんをどうしてやろうかな。


「深月ちゃん、このスマホに入ってるSIM気を付けてね」

「え、どういうことですか?」


私は、笑みを返すだけにして社長室に戻った。

ちょっとした悪戯心だ。



「えー、怖いんだけど」


財部 深月は、ボヤいていた。

それでも、やらなければならないので渋々作業をする。

開通手続きを終わらせた彼女は、慎のスマホと空の貸与スマホとでSIMを入れ替える。

そして、慎のスマホに緋音が選んだSIMを入れる。

それぞれのスマホの電源を入れていく。

キャリアロゴが表示され、暫くすると独特な着信音が鳴り響いた。

事務所中の視線が、財部へと向けられる。


「もぅ、こういう事!」


彼女は、驚きで張り裂けそうな胸の鼓動を必死で我慢しながら貸与スマホをサイレントモードにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る