第43話

「うん、顔色戻ってきたね」


緋音が、俺のおでこに手を置きながらそう言った。

原因はよくわからない。

身体が怠くなるし、息苦しくて、心臓が締め付けられるようだった。

緋音と電車の中で再会した時も最初同じ感じになったような気が…。

そう。まだ『緋音』だと気づく前の僅かな瞬間だけ。

女性と接したのは、緋音の友達の看護師長さんと緋音だけ…いや、母さんと緋音の…今は俺の義母さんか…それくらい。

前職は、男性ばかりの職場だった。

今とは、真逆だ。


「慎くん、なんかスマホ凄く通知出てるけど」


応接用のテーブルの上に、スマホが置いたままになっていたようだ。

俺は。スマホを手に取る。

そして、通知を確認する。

その瞬間。

胃酸が逆流するのを感じだ。

だが、完全には口から出ることはなかった。

俺は、スマホをソファに投げつけた。


「どうしたの?慎くん」


緋音は、俺が投げ捨てたスマホを手に取る。

きっと今もなお通知は増えているだろう。


「あー、なるほど」


緋音が、口元は笑っているのに目はとても怒気を孕んだ表情をした。

俺のスマホには、元嫁『真恵』からの着信が入っているのだろう。


「慎くん、着拒しないの?」

「いや、してあるんだが」


そう、着信拒否にしてあるのだ。

それも、離婚後直ぐに。

何度も何度も掛けたとしても俺が出るはずはない。

それでも、俺に対しての嫌がらせにはなるだろう。


「取り敢えず、スマホ電源落としちゃおうか」

「ああ、そうだな」


緋音は、そのまま俺のスマホの電源を落とした。

俺は、投げた拍子に画面ロックを解除していたようだ。


「私も、やっとさっきの慎くんの状況を理解できたよ」


緋音は、俺の隣に腰を下ろす。

テーブルの上には俺のスマホが置かれた。

そして、俺は彼女に抱き締められた。

それと共に、スーッと怠さが抜けていった。


「私には大丈夫…なんだよね?」

「ああ、緋音は大丈夫だな。だから、気付けなかった」


これは、2人での答え合わせ。

俺は、いつからか『女性恐怖症』になってしまっていたらしい。


「ちょっとお仕事は調整するから…みんなとは対面じゃなくてもお仕事できる環境を整えるね」

「ごめんな、迷惑をかけて」

「ううん、迷惑なんて思ってないよ。

それに、夫婦だもの支え合っていこ」


その言葉は、俺が今まで欲しかった言葉だった。

真恵からは絶対に貰う事の出来なかった。


「ああ、そうだよな。夫婦は支え合いだよな」


心が、温かくなっていく。

俺の頬を涙が伝う。

緋音が、隣にいてくれてよかった。

彼女がいるから、俺は歩いていられる。


-------------

ちなみに、看護師長が大丈夫だったのは彼女から緋音の存在を無意識に感じていたから。

割と、近しい雰囲気を持っている。

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