第42話

「じゃあ、午後のお仕事始めようか」

「まずは、各部署へ面通りに行こうか」

「緋音は、自分の仕事あるんじゃないの?」

「あるんだけど…私も仕事貰いに行かなきゃ」


オンラインでの会議をしていたのにペーパーでの仕事が早々あるものではない気がする。

まあ、建前としてだろうな。

1人で行ったとしてもどうしたらいいかわからないし。

どんな作業をしているから知らなくてはどうしようもない。


「あ、決裁書類の詳細を聞くだけだからね」


緋音の仕事は、凡そ3日分はあると思われる。

俺を迎えに来るのに前日から東京に来ていたらしいから。


「さあ、先ずは隣からかな」


社長室を出て、セキュリティゲートを潜ってオフィスへと向かう。


「先ずは、一番関係が多い事務…財務部・営業部だよ。

みんな、慎く…おほん、萩岡さん連れて来たよ…私も萩岡だった!」


くすくすとオフィス内が笑い声に満ち溢れていく。

そして、実感する。

男性は、俺だけなんだと。

ただ、それでも独特な笑い方をする人はいるようだ。

一際大きな笑い声だったり、拍子がズレていたり様々だ。


「えっと、緋音社長…有給無理です。諦めてください」

「あー、うん。じゃあ、公休扱いでいいよ」

「じゃあ、申請書は返却しときます」


ザ・キャリアウーマンって感じのお堅い眼鏡にピシッとスーツを纏った女性がそう言った。

多分、財務部の人なんだろう。


「あ、この子は財務部長の 財部たからべ深月みつきちゃん。

深月ちゃん、こっちが私の旦那様で秘書の萩岡 慎くん」

「財部です。よろしくお願いします」

「あ…こちらこそ…よろしく…お願いします」


おかしい。

まともに喋れない。

緋音が、俺の顔を見て首を傾げている。


「大丈夫ですか?とても、顔色が悪いですけど」


どうやら、俺の顔色が悪いようだ。

理由は、分からない。

どうしてだろう。


「うーん、とりあえずもう1人だけ紹介してもどろっか。

えっと、武営たけなか

「あー、はーい。後ろです。後ろ」


背後から、元気な声が聞こえる。

赤毛の混じった茶髪の女性が、スーツを着崩していた。


「彼女は、武営たけなか かえで。営業部長だよ」

「よろしく…お願いします。萩岡 慎…です」


どうしても、口籠ってしまう。

おかしいな。

どうも、本気で調子がおかしくなってきた。

身体が凄く怠い。


「よし、取り敢えず社長室もどろっか」


俺は、緋音に手を引かれながらオフィスから退室した。

そして、社長室に戻るソファに倒れ込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る