第36話

「えへへ、これで私は萩岡 緋音だよ」


前方不注意気味に、クルクルと円舞曲を踊る緋音。

かなり浮かれている。

そして、転びかける。

俺は、慌てて彼女の腰を支える。


「緋音、危ないよ」

「あはは、ありがとう。慎くん」


細いな。

昨日、素肌を見たはずなのに改めて触ると緋音のウェストの細さを実感する。

それにしても、ヒールでよくもまあ踊れるものだ。

その所為で、転びそうになっているんだから仕方ない。


「帰るには、まだ少し早いからスタバでも寄っていこうか」

「え?スタバ」


スターバックスの看板が見えてきた。


「ふふ、そうだったね。

ここも、慎くんがいない間に出来たんだよ」


少し変わった造りで趣がある。

ドアの取っ手が、木製だし。


「確か天竜杉を使ってるらしいよ」


言われてみると杉の香りがする気がする。

天井にも、天竜杉が使われているようだった。

俺達は、ドリップコーヒーを注文すると席に着いた。

席には、クッションが置かれたソファがあった。

表面に凹凸感のあるふっくらとした暖かみのある風合いの生地。

確かこれは…。


「あれ?これって遠州織物だっけ?」

「うん」


俺達は、隣り合わせに席に着く。


「浜松城公園もすっかり変わったんだね」

「うん、慎くんがいない間にいろんなところが変わってるよ」

「確か此処は、池があったところだったよね」


大きくはないが橋のかかる池があった。

といっても、これと言って思い出は限りなく少ない。

春にお花見によく来ていたくらいなものだ。

浜松城公園は、浜松でも桜の名所として結構有名な所である。


「じゃあ、明日はアクトタワーにいってみない?」

「ああ、それもいいかもな。

オープンした時に、2人で展望台に行ったっけ」


アクトタワーは、いまから30年前に出来た。

だから、俺も緋音も小学生の頃に一度展望台に行ったことがある。

あれ以来行ったことはない。


「懐かしいね、もう30年も前のことになるのよね」

「小学生だったもんな」


俺達は、11時を回る前にスタバを後にして帰社するのだった。

緋音と過ごす時間は、とても懐かしくてとても心が安らぐ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る