第35話
「それで?あんな大々的に言う必要あった?」
「あったよ」
俺達は、歩きながら話をしていく。
いつの間にか、緋音が俺の手を繋いでいた。
「あのね、私。社長なの。
決裁に必要なサインに変更が必要になるのよ、全部ね」
確かに、必要になるよな。
つまりは、朝礼でいったのはそういった修正をする為?
それにしたって、大体的過ぎじゃない。
「それにね、知ってもらいたかったんだ。慎くんは私の物って。
ほら、うちってみんな女の子だから」
「あ!それだよ、それ。もしかして、男性社員俺だけ?」
緋音は、そっと視線を逸らした。
ああ、うん。俺だけなんだな。
肩身が狭いなぁ。
「先に言っておいてほしかったなぁ」
「ゴメンね、気付いた時には遅かったから」
「はぁ、仕方ないな」
俺は、嘆息しながら覚悟を決めるのだった。
市役所。
花々が彩られた真っ白な建物。
裏手には、浜松城公園が広がっている。
公園には、名前の通り浜松城が聳え立っている。
随分久し振りに来たな。
市役所は、全くと言って変わっていない気がする。
「あれ?元城小学校は?」
俺は、市役所に入る前に脇にあるはずの校舎を探した。
が、見えないから口に出していた。
「えっと、ドーナツ化現象がねぇ…何年か前に数校と統合したんだったと思うよ。
確か、小中一貫校の浜松中部学園だったかな」
「そうなんだ、知らなかったわぁ」
「去年は、大河ドラマのドラマ館があったらしいよ」
大河ドラマか。
なんだったかな?
確かに、電車の中吊りで見たような記憶があった。
井伊直虎…は、もっと前だっけ。
ああ、徳川家康か。
あんまり、テレビ見ないから知らなかったな。
「ほらほら、行くよ」
俺は、緋音にグイグイと手を引かれて市役所の中へと入っていく。
そして、受付へと向かう。
「本日のご来所は」
「はい、住所変更と婚姻届の提出に」
緋音が、受付の男性の声を遮って続ける。
「では、区民生活課で手続きいたします」
受付の裏手を彼に案内された。
俺達は、そちらへと向かう。
そして、それから手続きをした。
あんまり、覚えていない。
延々と書類を書いたりしたくらいだ。
でも、唯一覚えていることがある。
「おめでとうございます」
その一言だけは、しっかり覚えている。
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