19 婚姻の儀はもう目の前……だけど、これは面白くなりそうです

「───失礼致します。アルヴィン様、そろそろ式場に移動する時間です」

「分かった」


 新たな決意をしつつ、表面上は公爵様と報告会をしていると公爵様の側近の方が入ってきた。気配を覚えていた人だから側近なのは知っているけれど……


「公爵様、こちらの方は?」

「申し遅れました。私はシエル、アルヴィン様の側近にあたります。はじめまして、奥様」

「あら、そうでしたの。わたくし、リーシャ·フランクスと申します。まだ奥様ではありませんし、その呼び方は不快ですので、どうぞリーシャとお呼びくださいな」


 不快ですので、のところを強調して言うとわたしを見定めていた目を一瞬見張った。


 分かり辛いように配慮しているのは感じられたし、わたしが口を出す必要はないかな。好きなだけ見定めたらいい。わたしがこの人に認められようがそうじゃなかろうが、三年後に離婚するのだからどうでも良い。だからこう付け加える。


「わたしと公爵様が契約結婚だってこと、シエル様はご存じでしょう」


 側近は側近でも、公爵様がかなりの信頼を置いていることは見れば分かる。十中八九、わたしとリジーのような関係でしょうね。


「これはこれは、驚きました。その様子でしたら私が観察していたことにも気付いているようですね。ご無礼を、申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらず。相手のことを調べていたのはわたしも同じですから」

「私のことはどうぞシエルとお呼びください、

「結構でしてよ。


 はは、おほほ、とお互いに笑顔で睨み合う。嫌味な主人の側近は随分と腹黒いようで、これはこれから面白くなりそうですね!


 公爵様がすぐ隣で呆れた顔をしているのでこの方に見せるのと同じような笑顔を向けると綺麗な笑顔で返された。何というか、嫌味な笑顔も似合っていて思わずそっぽを向いてしまう。


 この公爵様、本当に嫌味な人だよね。


「シエル、ですよ」

「……あの、公爵様」

「どうした?」


 まだ顔がにやけていること、ちゃんと分かっていますからね!せめて隠してください。


「わたし、シエル様のこと好きになりました」

「…………」

「はい!?」

「あ、そこは驚くのですね!」

「愛人は作らない契約だろう。もう契約を違反するのか、奥様?」


 はい?そんなこと分かっていますけど。なんで今そんなこと言ってくるのかな?


 ………まさか。


「恋愛ではないですからね?」

「それならなんだ?」

「普通に人間として、ですけど。今のやり取りで恋する要素ありました?」


 そう言うと公爵様とシエル様は顔を見合わせて微妙な表情になった。そして同じようにわたしへ視線を向けてくる。責められているように感じるのはわたしの気のせいですかね?いや、絶対気のせいじゃないよね。


「何ですか、その顔は。……シエル様は話していて飽きません。公爵様と違って言い返しやすい嫌味なところも高評価です。上から目線ですけど」

「嬉しくないですね」

「取り繕う必要のない相手ってことで良いじゃないの。さあ公爵様、行きましょう。またお話しましょうね、シエル様」

「……はいはい。では私もそうさせて頂きます」


 もう疲れたとばかりに溜め息を吐いて両手を顔の横まで上げ、降参のポーズを見せてきた。でも表情は楽し気な笑顔だから、やっぱりこの人は良いね。

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