18 うっかりです
「リーシャ様……」
リジーが抗議するような目線を向けてくる。うん、これはわたしが悪い。
「リーシャ?」
「あ、はい。どうぞ……」
「一週間ぶりだな…って、なんだ?その顔は」
「いえ、なんでも」
こちらの都合ですからお気になさらず。あの、言い訳させてもらうと、わたしはこの人の気配を覚えるのを忘れていたのですよ。気配を覚える必要がないと無意識に判断したからでしょうねぇ……あはは。
「まあ良いが……ふむ」
「なんですか」
「そう警戒した顔をするな。ただ一週間前に比べると随分変わったな、と」
「公爵家で健康的な生活を送りましたからね」
「君はお母君に似ているのか。伯爵の血を感じないが本当にあの伯爵の子か?微塵も似ていない」
「お母様に似ていると言われるのは嬉しいです。わたしはお母様ほどの美貌はありませんけど、お父様には似たくなかったのでそう言っていただけて良かった。ですが失礼なことを言わないでくださいよ。正真正銘フランクス伯爵の子です。あの血が繋がっているだけの父親と大事なお母様を一緒にしないでください」
お母様がいながら不倫していたお父様と違って、お母様は誠実で優しい方ですし。お父様のことを愛してこそいなかったようだけど、不誠実なことはしない。
お父様はどうでも良いから好きに言えば良いんだけど、お母様大好きだから悪く言わないでほしい。そういう気持ちを込めて睨むと、「悪い。そんなつもりはなかった。お母君が誠実でいらしたのは君を見ていれば分かる」だそう。
「それなら良いです。婚姻の儀はいつからでしたっけ」
「今から式場に向かう。その前にこの一週間の話でもしよう」
「分かりました。公爵様は大事な案件があると言っておられましたけど、それはもう良いのですか?」
「そうだな。しばらくは屋敷での事務仕事になる」
とは言っても忙しいんだろうね。わたしも公爵夫人になったからそれなりに仕事はあるのでしょうけど、フランクス領をひとりで管理するのに比べたら全然楽勝ですよ。……たぶん。
だって、フランクス領ってお母様が亡くなってからお父様が無理な税を科すから領民の手が回らなくて、作物はまともに育たず家畜をどうこうしている場合ではないし。それに治安まで悪くなっていった。それをわたしひとりで立て直したんだよ?
立て直ってはないけど、税は標準まで戻して三日に一度は視察ついでに領民の生活を支援して。作物が育たなかった年にはわたしの私財で購入した食料を飢えている領民に支給して。色々研究しつつ、領地と領民を必死に守ってロードの仕事もこなす。
よく壊れなかったよね、わたし。おかげで領民には慕われていると自負しているが、わたしがいなくなったあの領地はまた以前に逆戻りするのだろうか。
ううん、わたしがそんなことさせない。折角あそこまで頑張ったのだし、何が何でも守り抜く。フランクスの爵位はどうするか決めてなかったけど気が変わった。近いうちに皇帝陛下に相談しよう。
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