第64話

バイセンや他の侍女たち。そしてお医者様やたまに来る訪問者たち。彼らの相手をするのは温度小町であり、ただの小町、つまり私じゃない。




役者でもあるまいし純粋で可愛らしい温度小町を演じるのは、転生を二度も繰り返している私の真っ黒な心じゃ無理があるのも当然だった。




昔の自分に戻るには、あまりにも人の悪意を見すぎていて。そして、ビターを始め他人に与えられた苦痛があまりにも痛すぎて。




この場所でじっとしているだけだったとしても結構限界だった。




そんな中、私を支えてくれたのは、意外なことにミルの存在とこの……。




「もし、私が選ばれなかったら、どこかに家を買ってひっそり暮らすのもありだと思っているのよ。」


「……小町。」




この、スプレの存在があったからこそ。




大切な友達。少々砕けてしまっている自分を、受け入れてくれている人。




「喘息が治ったら農業でも学ぼうかしら。実家に帰るという手もあるけれど、それではお父様にご迷惑をかけてしまうわ。」




こうして私を誰よりも心配してくれていて、楽しませてくれるスプレがいるからこそ、私はここまでやってこれたの。




まぁ、これだけ頻繁に会うほど怪我しているのもどうかと思うのだけど。



傷は兵士の勲章と言うし、そこは気にしないでおく。

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