第63話

それがもし、今後の私の人生に大きな変化をもたらすかもしれない。そう思うとこの人とは距離をおかなくちゃいけないのに。




「私はね、もう、大丈夫だから。」


「っっ。そういうわけには、いかないだろ。」




この人は私の心の中に、入り込んでくる。



これが恋と呼べる感情なのかは分からない。それにスプレは今、ビターと私の関係を憂いているのだから、スプレが私に好意を持っているなんて万にひとつもありえない。



「陛下が私以外の誰かとご結婚なさっても、それでこの国が繁栄するのなら私は構わないわ。」



それでも、私の言葉に悲しそうに目を伏せるこの優しい人に、死なないでほしいと思う。





この場所に来てからというもの。私はただただ、ビターの心から自分がいなくなるのを待つしかなかった。




8歳のあの頃、ビターが私に恋をしていたとは考えにくいけれど、うぬぼれではなく彼は私を将来の妻として見てくれていたのだと思う。



前々世では私が成人してから結婚してからも、妻として、女として大切に愛されていた自覚はあった。




……あれが、ただの幻想でしかないのかもしれないけれど。




だけどわざととはいえ、長く続く喘息の症状、遠い療養所だとしても未来の妻候補として生活しなければならないプレッシャーに、私の心はどんどん疲弊していっていたのだと思う。

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