第62話

ーーー、



「おはよう、スプレ。」


「……おはよう。」




療養所での生活も、もう7年になっていた。



「昨日運ばれて来たと聞いたわ。また無茶されたのでしょう?」


「ははっ、小町にはすぐにバレてしまうな。」


「ふふ、もちろん。ここは私の家みたいなものですもの。」





ビターとは、数えるほどしか会っていない。そしてシュガーは愚か、他の候補者たちは、会ったこともなかった。



それもそのはず。彼女たちにとって私はもう、過去の人間。



今は自分たちの中で誰がビターの妻となるかで忙しいのだろう。




作戦は、順調、なのだけど。




「スプレ、そんなに悲しそうな顔をしないで。」


「……悪い。」





スプレの存在は少々、誤算だった。



英雄スプレ。この人は今年、命を落とす。戦場で手傷を追って、この療養所で。兄であるビターにも、この人を崇める国民たちにも見送られることなく、寂しくこの世を去る人。




長くここで生活する内、怪我の多いスプレは度々この療養所での生活を余儀なくされていた。



その度に私はスプレの持ってくるお土産話を楽しみにしていて、時には夕食のあとのお茶の時間が夜遅くまで続いたほど。




言ってみれば私は、前々世で関わったことがほぼないこの人と、仲良くなってしまったんだ。

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