第62話
ーーー、
「おはよう、スプレ。」
「……おはよう。」
療養所での生活も、もう7年になっていた。
「昨日運ばれて来たと聞いたわ。また無茶されたのでしょう?」
「ははっ、小町にはすぐにバレてしまうな。」
「ふふ、もちろん。ここは私の家みたいなものですもの。」
ビターとは、数えるほどしか会っていない。そしてシュガーは愚か、他の候補者たちは、会ったこともなかった。
それもそのはず。彼女たちにとって私はもう、過去の人間。
今は自分たちの中で誰がビターの妻となるかで忙しいのだろう。
作戦は、順調、なのだけど。
「スプレ、そんなに悲しそうな顔をしないで。」
「……悪い。」
スプレの存在は少々、誤算だった。
英雄スプレ。この人は今年、命を落とす。戦場で手傷を追って、この療養所で。兄であるビターにも、この人を崇める国民たちにも見送られることなく、寂しくこの世を去る人。
長くここで生活する内、怪我の多いスプレは度々この療養所での生活を余儀なくされていた。
その度に私はスプレの持ってくるお土産話を楽しみにしていて、時には夕食のあとのお茶の時間が夜遅くまで続いたほど。
言ってみれば私は、前々世で関わったことがほぼないこの人と、仲良くなってしまったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます