第58話

「しかし、辛いだろう?」



ミルの視線を受け止めて、なんともいえない気分になった。



この神野郎め。いつもは傲慢で性格悪いくせに、可愛いところあるじゃん。



でも、ね。




「私は仮初めのものだけど、実際にこれだけ苦しんでいる人がいるじゃない?事情があるにしてもこの病気を物のように扱ったのだから、少しだけでもこの病気の辛さを理解できたらと思う。」




ほんとは、怪しまれないようにこのまましばらくいなくちゃいけないからなんだけど、それだけじゃないと自分では思ってる。



「……小町。」




沈んだミルの声に、外していた視線を戻すと。



「なに食べてんの?」



「フルーツ大福だ。」



「そ。」



「うむ。」




いつものミルに戻っていて、イラッとした。




これ以上ミルを見ているのもムカつくから、立ち上がって窓の前まで行ってみた。



「良い、景色。」




目の前に広がる緑いっぱいの敷地。こういうところはビターの城と同じなはずなのに、解放感といおうか、そういうのが違う気がした。



これで、いいんだよね?私は今病気の身だから、成人するくらいまではここで過ごせるはず。




今ごろ、私が不在のままビターはシュガーを含め候補者たちを城へ迎え入れている頃。




そして、私があの城に戻った時にはきっと、彼の心も、他の誰かを見つめているはず。

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