第56話

「ふう。」


「お嬢様、さぞお疲れでございましょう?診察が終わり次第お昼寝をなさってはいかがでしょうか?」


「そうね、そうさせてもらうわ。」


「……かしこまりました。お医者様を呼んで参ります。」


「ええ、ありがとう。」


「失礼いたします。」




一礼したバイセンが部屋を出ていくと、ミルは体を投げ出してソファーに寝転んだ。



「ああー、疲れた!」


「ふふっ、っっ、ゴホッ、ゴホッ。」




こうして、気を緩めてしまうとまた苦しくなる。ここは住んでいた城の周辺に比べれば空気は格段においしいけれど、それですぐ喘息が治るというわけでもない。



「目的は果たしたんだ。治してやろうか?」


「いや、そんな奇跡起こしちゃったら不自然でしょ。」



「まぁ、そうか。」




私がビターの妻にならないようにするには、正直方法はいくらでもあった。



それこそ前々世までとはいかなくても悪女を演じるのもありな気がしたし、正直に候補を事態する、という手もある。




ミルというバックが私にはついているわけだから、神の見技とかなんとかで無理矢理ことを運ぶこともできた。



それでもこうやって病気療養の間に他の妻候補の後押しをする、なんて回りくどくて辛い道を選んだのは、ある程度この方法が現実的であり、一番安全に話が進みそうだったからだ。

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