第55話
「ここは、綺麗なところだな。」
「え?」
膝の上のミルが、開け放たれた馬車のドアから広がる広大な敷地を見つめながら言った。それにつられて私も顔を上げると、大きな平原が私の目を釘付けにする。
「ほんとに、いいところよね、ここ。」
「ああ。」
こちらに来てからというもの、呼吸が少し落ち着いていると思う。王都ではずっと感じていた息苦しさもここでは感じない。
薬の効果も大きいものなのかもしれないけれど、病は気からというように、病気を授かったこの体もこの大平原の前ではリラックスできているらしい。
しばらく、ミルと一緒に自然の大きさに圧倒され、ただただ見つめていた。
邪魔は入らない。わざわざ私の視界を遮ってまで邪魔するような人間はこの場所にはいないのだから。
そう、全てに疲れている私にはとても大事なこの場所。
一度だけ来たここに私は、最悪骨を埋めてもいいと思っている。
「お嬢様。お待たせ致しました。」
「ありがとう、バイセン。」
この地での思い出はほぼないけれど、これから作る思いでが私の人生で一番楽しかったものにしたい。
ビターの元を離れ、煩わしいものを全て排除して、ビターとシュガーの幸せを願う。心は馬鹿みたいに痛むけれど、それが一番、私の幸せへと繋がる道なのなら、例えボロボロになったとしても私は、彼女たちの幸せを願うしかないんだ。
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