療養所の奇跡

第53話

馬車での旅は、慣れてはいてもやっぱり体に負担がかかるもの。


それこそ乗り物酔いの酷いミルにはかなり過酷だったらしく、療養所に着いた頃には体重が半分になっちゃったんじゃないかというほどげっそりして見えた。




「ミル、大丈夫?」


「あんまり。」



もはや定位置となってしまった私の膝枕でミルは天井を見たまま呟く。なんだか魂が抜けたみたいで笑える。



全知全能の神も乗り物酔いには勝てないなんて、面白すぎるでしょ。




ゆっくりと馬車が停まって、すぐさま扉がノックされる。



「はい。」


「お嬢様、療養所に到着致しました。」


「分かったわ。」




私の返事とともに扉が開かれて、バイセンが姿を現した。そしてすぐ、私たちの様を見て片眉を上げる。



「なにを、なさっているのですか?」


「仕方ないのよ。ミルの乗り物酔いがとても酷いみたいだったから。」




なにかを言いたいらしいバイセン。だけどここでのミルは私の次に偉い、という位置付けらしく、さすがのバイセンもなにも言えないらしい。



この国では地位が全てを決める。




この場での序列は私が最高位、次点がミルで次がバイセン。御者だったり私の侍女だったりで少しずつ違うけれど、全ての人間に自分の立ち位置が決まっている。

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