第51話

「神様って、普段馬車には乗らないわけ?」


「は?」




こういうとき、話していると気が紛れると思ったから話題を提供してあげたのに。



「神は全知全能だぞ。移動に馬車など使うわけがなかろう?」



なぜかものすごく蔑まれ、こっちが不快な思いをさせられた。



「……勝手に吐いたらいい。」


「貴様!神に向かってなんたる暴言を!うっ、ほんと、に、吐きそう、だ。」




真っ青な顔でギュッと目を閉じた見るは、口を押さえてなにかをこらえている。



まさかここで吐いたりしないでしょうね?



「確かに結構揺れるけど。ミルって乗り物酔いしちゃうんだね。」




何度も頷くミル。仕方がない。



「こ、小町?」


「少し寝たら?枕くらい貸してあげるよ。」




ミルが横になれるように、私の太ももを貸してあげた。乗り物酔いには、遠くを見るのがいいとか言うけど、この馬車は警護の問題で窓がないし。



それならいっそ寝てしまった方が気が紛れるというものよね。



「ほら、目をつぶって。」


「あ、ああ。」




ちょっと照れ臭そうなミル。いつもこんな感じだったら可愛いのにな。



「うう。気持ち悪い。」


「乗り物酔いは体質だもんね。大変だね。」


「朝御飯の卵かけご飯を吐いてしまいそうだ。」


「……それが原因だろ。馬鹿じゃないの?」


「イタ!なにをする!」



太ももの上の無防備な額にげんこつを食らわせれば、ミルがプンスカ抗議の声を上げる。

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