第34話

「思ったんだけどさぁ。」


「うん。」


「敵前逃亡とか、どうよ?」


「はぁ?」




カップ麺のスープを飲んでいたミルが、間抜けな声を出した。



「……カップ麺の汁とか飲んだら体に悪いよ。」


「逃亡とは、どういう意味だ。」




ギッとこちらを睨み付けるミルに、思わず苦笑いがこぼれた。



「別に、本心じゃないじゃん。」


「しかしそう思っているからこそ言葉にできるのであろう!」




苛立ちのあまりか、ミルが机を叩いた反動でカップ麺は床に転がり、汁をぶちまける。だけどそれを気にもしていないミルの怒りはかなりのもので、それを見ているとなんだか、自分も腹が立ってきた。




「なんで?逃げても逃げなくても地獄なら、逃げた方が可能性があるでしょ?」




私がこのまま身を焼かれればきっと、家族も死んでしまう。



罪を犯した者、しかも皇族に逆らった人間の家族が無事で済むはずはないのだから。



私は家族より先に逝ってしまった。だから私の家族が私が死んだあと、どうなったのかを知らない。




「逃げたところで!お前はそれでよいのか!」



「……私の、家族は?」




私の呟きに、ミルが目を見開く。この世界の神様なんだから、私の家族がどうなったのかも知っているはずよね?




「私が殺されたあと、私の家族はどうなったの?」


「……それは。」

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