第5話

「……ん。」


「気がついたようだな。」




まどろみの中見えたその顔は、どこかホッとしたような表情を浮かべている。



「ビター、様」


「ん?」



私の額を優しく撫でるその大きな手。威厳に満ちたその端正な顔が、眠っている時は少し幼くなることを知っている。



「倒れたそうじゃないか。大丈夫か?」




私に心配そうに声をかけてくださるその低い声は、私を抱き締める時とても甘く、とろけるように耳に染み渡る。



愛していた人。もう、愛したくない人。




「っっ。なんでっ。」


「うん?どうした。」





ビター様の顔を見るだけですべての日々が一気に脳内を駆け巡った。そこでようやく気がついたこと。



このビター様は、現実だ!




「っっ。小町?」




気がついた時には、ビター様の手を振り払っていた。




「はっ、はっ。」




浅い呼吸を繰り返しても、体の震えは止まらない。この目が私を蔑み、この体が私を裏切った。心はもはや私には見えるわけもなく、この手は私を断罪するため、命に終わりを宣告した。




この人のすべてが、憎い。



だから私は、神に、願ったのに。



なぜこの人は再び、私の前で戸惑いを表しているんだろう?




「大丈夫なのか?」


「どうやら、まだ混乱されているようですね。」




ビター様と医者の声がどこかで聞こえる。その大きな手が自分の背中を擦る度、憎悪で鳥肌がたった。

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