第4話

「そんなっ。戻って、来るなんて!」



「小町様どうされました?顔色が優れないようですが。」




私、温度小町の家は、コーヒー王国唯一、異国の出身の貴族だった。



もちろん、血を重んじる貴族たちからは疎まれていたけれど、何代にも渡って繋いできた我が家の財産は、他の貴族に引けをとらないほど。



だから、その家の娘である私が、后候補になるのは不思議ではなかった。




「っっ。なんで!」


「こ、小町様?」


「なんで!なんでなのよ!」




何度床を叩いても、手は痛み傷が深まるばかり。



私は、戻ってきてしまったの?



「だ、誰か!お嬢様が怪我を!」



もう、二度と体験したくないことがここにはある。二度と、見たくない顔も。




私を心配して、背中をすってくれる婆やの優しい手の温もりも、やがて業火によって隔てられてしまう。





私は、このコーヒー王国の第82代王妃、小町ドリップ。




この王国史上最低の悪女であり、陛下や国民を絶望に陥れた張本人。




『悪女には極刑を!』


『極刑を!』





今でも聞こえてくる。人々の憎悪に包まれたその声が。




『もっと苦しめ。小町。』




聞こえてくる。陛下の無慈悲なその言葉が。




これから10年後。私はある物語の主人公になる。




伝説の、火炙りとなった、悪女小町に。

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