第64話

まぁ、人で言えば54など、立派なババアだからな。




「えと、あなたの名前は?」



しかし、そんなことを言っている和子も年を聞かれれば普通ではない。ウツワが長寿であると定めるのは難しいが、我々番となる鬼が愛し続ければ長寿と言えよう。




和子は今いくつであろうか。出会った時は20代ほどだと思っていたが、実はそうではなかったのだろう。



少なくとも、93歳以上……。



「火炉。」


「ん?」


「何か、考えてます?」


「いや。」


「……そうですか。」





こういうことには鋭いのか。和子の背中から冷気が見えたぞ。



「こわー。」



「あんまり言うと口を縫われるぞ。」




低い声で脅してやると雷知が口を慌ててふさぐ。




「めのう。」


「ん?」




お、雷知の餓鬼の分際で、空気は読めるようだ。父親よりは褒められるな。和子の意識が子供へと移っている。




「メノウと言います。和子様。」




粗末な服を着た、小さな子供は美しい礼をした。父親は着飾っているというのに、子であるこの娘は従者のような恰好だ。



だから和子はこの子供を従者と間違えたのだろう。しかし、所作から話し方まで、すべてにおいてこの娘には気品が溢れていた。




本当にこの無礼な雷知の子かと疑ってしまうほどに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る