第61話

「うーん。まだまだだな、やっぱり。」



「え?」



「あのね、今こうして髪が燃えてたのが火炉だったら。それも髪が燃える程度で済まないくらい危険だったら、和子はどうする?」




そんなの、決まってる。



「だよねぇ。」




私の考えていることをお見通しなのか、雷知が残念そうに何度も頷いた。




火炉がもし、炎に包まれて今にも死にそうだったら?



そうだとしたら、私は、命を懸けてでも火を消そうとするだろう。




水をかけてみる?それともたくさんの砂?どれも今すぐに用意できるものじゃない。



きっと、着ている服で、部屋にあるもので、とにかく消そうとするだろう。だけど、この炎は特別。そして火炉が消せないとなると。



結果は分かりきるほど、分かるから。




多分私は、この手が、この体が燃え尽きるとしても、自分の手で消そうとするかもしれない。




もちろん、死への恐怖で体が動かないなんてことは十分にあり得る。だけどこれだけは、確信できる。




火炉のためなら、こんな命、いくらでも……。





「それが僕だったらいいなって思ったんだけど。失敗したみたい。」



「え?」




考え込んでいる内に、雷知が目の前まで来ていた。見上げたその笑みは少し寂しそう。



「まぁ、冗談冗談。そんなこと無理に決まってるよね。」



「……もう。」

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