第52話

「ククッ、冗談だ。羽水。」



「っっ、はぁー。はー。ゲホッ!」




突然、目の前に強く吹きかけられたように酸素が舞い戻った。胸を抑えて少しずつ吸い込もうとしても、生きようとしているのか肺が過剰に空気を吸い込み続ける。




「羽水、大丈夫?」



和子様が返事すらする余裕のない僕を気遣ってくれる。そして。



「和子、どこへ行く?」




王の腕の中からすり抜け、僕の傍へと来てくれるんだ。




「和子。」


「なんですか?」




僕の肩に、和子様の小さな手がのせられる。それは何度も何度も、小さく僕の肩を叩き続けた。まるで、大丈夫だと言い聞かせているようで、ホッとする。




「触るな。本当に殺すぞ。」




王の体の周りの空気が揺れる。怒りのあまり炎の制御が利かなくなっているのだ。このままだと僕は一瞬で燃えつくされかねない。その時和子様がケガでもしたら大変だ。




「和子様、離れてください。危のうございます。」



「嫌。」



「え?」




それなのに、和子様は今度はしっかりと、僕を後ろから抱きしめた。



「……和子、本当に殺すぞ?」



やばい、やばいぞ。もはや王の怒りが尋常ではない。このままだと周辺一帯すべてが燃えつくされてしまいそうだ。




それなのに和子様は、僕を解放することはない。

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