第43話

時ではだめだった。そして鬼の妻を娶ってもかなわなかった。これまで、93年間、和子以外で試してみても実現には至らず。





半血である私の血は、鬼でも人でも中途半端な者しか生み出せず、ただただ、屈辱感を味わわせるだけ。




ああ、欲しい。完璧なウツワである我が妹が。




「今日は言いたかったことがあるのだ。」



「……なんでしょうか。」




私からの愛に眉を顰め、その目に映るものは信用とは程遠い。しかしそれでも私は、お前でなくてはならない。




「いつでも帝都に訪ねてきてくれ。」



「え?」




私がお前への笑顔を崩すことはない。そして鬼には、我が心が香ることもないのだ。



鬼という下等な存在に、我が崇高な心は読めはしないのだから。




戸惑う和子に、小さく頭を下げた。




「帝都では息子が悪かった。私は今日、お前に謝りにきたのだ。すまなかったな。」




和子の目が泳ぐ。ここでも私の足を引っ張るあの出来損ないに、今でも腹が立って仕方がない。



しかし子の不始末は親がしなくては。そうだろう?




「え、と。」


「もうあいつは死んだ。ただそれだけだ。だけどお前は生きている。そうだろう?」




和子が不快そうな顔をする。しかしここで時への愛情を取り繕ったところでお前にはバレているんだろう?



それならば、包み隠さずに言おう。私は時を愛していなかったと。

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