第38話
「それで?突然皇帝が我が屋敷に来たのは和子が目覚めたからか?それとも宣戦布告か?」
火炉の声は心なしか弾んでいる。それなのに見上げれば、火炉の笑顔はどこか恐ろしい。
「妹に、会いに。」
それだけを言った周防は、火炉を見つめる。交わされた2人の視線がなにを語っているのかは、私には分からない。
だけど、だんだん火炉の機嫌が悪くなっているのは分かる。ううん、周防がこの部屋に入る前から、どこか雰囲気がピリついていた。
「さて、もう会えただろう?帰れ。」
周防へ向かって手を払った火炉は、私の手を引いて暗闇を出す。
「待て。」
私たちの歩みを止めようと、周防の低い声が室内に響いた。その低い声に体が緊張する。
だけどそれくらいで火炉が立ち止まることはない。催促するように手を強く引かれて、私は暗闇へと足を踏み入れた。
「待てと言った。」
周防の低い声と同時に、火炉の暗闇が光に包まれる。
眩しさに目を閉じて、突然訪れた静寂に息苦しくなった。
目を閉じているから当たり前なんだけれど、なにも見えない。音も聞こえず、感じるのは火炉の手の温もりだけ。
だけど唯一のその温もりに安心する。火炉が今一緒にいる。それだけで私は平静を保てていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます