第38話

「それで?突然皇帝が我が屋敷に来たのは和子が目覚めたからか?それとも宣戦布告か?」





火炉の声は心なしか弾んでいる。それなのに見上げれば、火炉の笑顔はどこか恐ろしい。





「妹に、会いに。」




それだけを言った周防は、火炉を見つめる。交わされた2人の視線がなにを語っているのかは、私には分からない。




だけど、だんだん火炉の機嫌が悪くなっているのは分かる。ううん、周防がこの部屋に入る前から、どこか雰囲気がピリついていた。




「さて、もう会えただろう?帰れ。」




周防へ向かって手を払った火炉は、私の手を引いて暗闇を出す。



「待て。」




私たちの歩みを止めようと、周防の低い声が室内に響いた。その低い声に体が緊張する。




だけどそれくらいで火炉が立ち止まることはない。催促するように手を強く引かれて、私は暗闇へと足を踏み入れた。




「待てと言った。」




周防の低い声と同時に、火炉の暗闇が光に包まれる。



眩しさに目を閉じて、突然訪れた静寂に息苦しくなった。



目を閉じているから当たり前なんだけれど、なにも見えない。音も聞こえず、感じるのは火炉の手の温もりだけ。




だけど唯一のその温もりに安心する。火炉が今一緒にいる。それだけで私は平静を保てていた。

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