第37話

不意に、火炉の謁見の間の扉が叩かれる。それだけでなんだか不思議な感覚。



だって鬼たちは扉を使うことがほぼないから。みんな自分の暗闇を出して移動する。


だから扉を使うとしたら私くらいなもの。そんな私も、基本誰かと一緒にいるから、普段は暗闇を通っている。


扉が開いて、息を呑み込んだ。




想像していた通り、扉をくぐって現れた周防は少しも老いることなく、最後に会った時のままの様相だった。




周防の真っ白な目が私を見据える。



時が、止まったような気がした。




通いあうものなんてないのに、周防から視線が外せない。怖いとも愛しいとも違う。




なにか、周防から私へ、流れ込んでくるような、そんな気がした。




「我が妻と見つめ合う権限は与えていないが。」




途端に目の前を暗闇が覆う。火炉の不機嫌な声を聞いて、すごく安心した。



「申し訳ない。久しぶりの妹に会えて感動していたのだ。」




周防の言葉を聞きながら、火炉がゆっくりと視線を解放してくれる。見えた周防は先ほどのように変な感じはせず、ただ笑っていた。




「元気にしていたか?和子。」



「…はい。」




私の返答に、周防がホッと息をつく。優しい笑顔、なのだけどどこかそのままで見れない自分がいた。

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