第29話

だけどそうじゃないことを、私は知ってるから。




「良かったではないか。王になりたかったのだろう?」


「動機が、不純です。」


「ん?」




私の頬を撫でながら、火炉は上機嫌。こうやって温かい陽の光の下、みんなと語らうのも久しぶりだから。




「王と、国盗りをしたくなった、と。」


「俺とか?」


「はぁ。」




桜土の言葉に、火炉が目を見開いて、小さく笑う。




「くくっ、鬼のくせに国盗りか。」



「王がいらっしゃらないので、暇だと。」



「暇?」



「……はい。」





桜土の言葉に、火炉と目を合わせた。途端に込み上げてくるのは……。




「ははっ。」


「ふふふ!」




抑えることのできない、可笑しさ。



「笑いごとじゃありません!人間の真似事のようなことをして。それに、地影は周防と手を組んだんですよ!」



「え?」




その名前を聞くだけで、不安になる。


私の、この世に存在する唯一の肉親。



私の、兄。



そしてなぜだろう、この世の誰よりも、周防の存在が怖い。




唯一、私と火炉を引きはがせる存在、そんな気がして。



唯一、私の心を引き裂ける存在、な気がして。




血の繋がりは、人にとって大きな意味を持つもの。だからこそ私は怖いんだと思う。



私はウツワだけれど、同時に周防の妹でもある。



周防と繋がるこの血は、火炉たちを傷つけないだろうか?


傷つける保証もないけれど、傷つけないという、保証もない。

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