第26話

side 和子





「桜土か。」




火炉が、囁くようにそう言った。



「お久しぶりでございます。我が王。」


「ほう、俺はまだお前の王なのか?」


「当たり前にございます。」


「ふ。」




火炉の後ろに膝をついて控えている桜土は、私の記憶の最後のまま、止まっていた。



火炉は、弱っていた。子供だった月夜は成長していた。だけど桜土は、少し着物の雰囲気が違う程度で、見た目は変わった様子はない。




「おはようございます、和子様。」


「おはよう?桜土。」




私を見て、桜土の頬が緩んだ気がした。



「あまり見るな。殺すぞ。」


「相変わらず手厳しいですね、王よ。」




そして火炉との"軽口"も相変わらず。



「ふふ。」


「なんだ、和子。」


「いえ、相変わらず、仲が良いですね。」


「ん?」




理解ができないとばかりに、火炉の視線は桜土へと移ろう。その視線を受け止めた桜土は、というと。




「ふふっ。」




やっぱり、理解できていない。



桜土と火炉の主従は、似ているところが多くあると思う。一緒にいる時間が他の誰よりも多いからだろうか?それとも。




桜土が火炉を、火炉が桜土を、お互いに尊敬しあっているからなのかも?




鬼に感情はないというけれど、鬼だって泣き、笑い、敬意を払う。



感情がないなんて嘘。鬼のそれはあまり匂わないほど深く感じないだけだ。

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