第25話

それに和子が気付いているのかは定かじゃない。しかし、それがどんな力なのか、俺にも分からなかった。



「気持ちいいな。」



「…そうだな。」



ただ、和子とこうしてのどかな風景を眺めながらぼーっと過ごすのもいいと思った。俺たちの間に、こんなに穏やかな時間が流れたことなどないだろう。



生け贄として我が屋敷に来た和子を、無理やり妻にした。鬼しかいない中での生活を強いられ、俺に食らわれる日々は果たして和子にとって本当に幸せだったのかは分からない。




そんな中、図らずも自分の正体を知った今、ウツワとしての自分を和子はどう見ているのだろう?



「和子。」


「はい?」




崖下には鬼たちの住む村々が見え、春の陽の光は俺たちを温め、癒す。どこかで鳥のさえずりが聞こえ、春風は草木を鳴らして心地よい香りを運んだ。




「幸せか?」




妙に、人間らしい質問だと思った。自分でも驚いている。



しかし、質問を受けた和子はというと、とても、とても和やかに笑う。




「幸せですよ。」


「…そうか。」


「はい。」




俺に抱きしめられ、笑う愛しき妻は幸せであると笑う。その笑顔はウツワとしてのそれなのか、和子という人間のそれなのか。



ただ、分かるのは、今和子は本当に幸せを感じている、それだけだった。

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