第24話

それでもなぜか、すべてを投げ出し、和子を食らうこともできず、和子を愛さないという選択肢も選べなかった。




拳を握った。弱った体はまだ体力を取り戻してはおらず、あれほどみなぎっていた力の欠片も読み取ることができない。




これが俺なのか?あの、鬼の王なのかと呆れてしまうほど。



鬼はウツワから力を奪い、愛することをやめればその力を手に入れることができる。



しかしウツワは鬼からの愛無くては生きられず、鬼からの愛を失えばウツワはすぐさま子を産み落とし、その生涯を閉じる。



そして子が次のウツワへと成長し、力を与える鬼と出会うのだ。



鬼とウツワの関係は、歌から読み取るにそうなのだろう。俺と和子の間にも歌の通りの関係が存在するからだ。





つまり、鬼がウツワを、俺が和子を捨てるのは運命であるということ。



俺はそれが気に入らなかった。




こんなにも愛しているこの女を捨てる?力の代わりに愛を捨てる?そんなの愚かでしかない。



「ん?」



「……いや。」




額に口付ければ嬉しそうに笑うこの美しき妻を、力を奪われてもなお、放すことなど不可能だ。




体が気づいている。



鬼の力を吸収したウツワの力が強くなっていることに。



今和子は恐らく、なんらかの力を得ていた。

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