第23話

久しぶりの温もりに、なにかが込み上げてくるのを感じる。どうしてしまったんだろうか。こんな感情、俺らしくない。





鬼の王として、いや、いち鬼としても腑抜けてしまったのかと思う。




寝床で飢えと戦い、時に負けそうになりながらも和子を愛し続けた。和子に口づけるたび、何かが吸い取られていく。




全てを奪われる気がした。力も、命も、すべて。



それでも俺は、和子を愛することを諦められなかった。それなのに、腹は減る。ただ減っているというわけじゃない。重度の飢餓状態だ。




鬼の飢餓は、人のそれとは違う。周りの動く生き物すべてを殺し、それを食らっても足りない、それほどの強い飢えはただひたすらに、食べろと命令し続ける。




それを抑え、和子を殺さない程度で食うことは難しい。それでも俺は無意識に、和子を殺さないよう歯を立てた。




だからか腹は満たされることはなく、こんなに美味いものがあるのになぜ食らいつくさないのかと叫ぶ自分と格闘しながら、長い年月を過ごした。




それでも耐えたのは、和子を愛していたからだ。



時にその愛を空腹のせいで疑ったこともあった。俺は鬼としてウツワを愛しているだけじゃないか?火炉として和子を愛しているわけじゃないんじゃないかと。

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