第20話

「ふ、冗談だ。」


「……もう。」



小さく笑った火炉が、体を起こして私を見つめる。その赤い目は変わらず食欲を孕んでいて、呆れてしまうほど。



さっきあんなに"食べた"のに、まだ足りないなんて。





「それで?」


「え?」


「機嫌は、直ったのか?」


「っっ。」




愉快そうにニヤニヤ笑う火炉が、箸を手に取っておかずを物色する。



迷い箸、なんて、お行儀の悪い鬼の王。だけどこの人の毎日、いや毎時間の成長ぶりには目を見張る。




火炉は、感情を味だけで見なくなった。その感情に含まれる付属のもの。複雑な人の心まで火炉は理解しようとしている。



そうしているからこそ、今の私のことが分かっている。



火炉はわざと、冗談を言った。心に浮かぶ殺意に怯えている私のことを気遣って。




火炉の大きな手が私の頭を撫でる。心地よい、そう思うのに逃げ出したいとも思う。




人の感情は一つだけ浮かぶことはない。怒れば悲しみも同時に、笑えば喜びも同時に浮かぶ。人の感情は複雑。だけど鬼たちはその最も濃い匂いだけを認識する。



些細な感情には目もくれず、最も濃い匂いだけを感じることができるのはきっと、小さな香りに気付けないから。




それだけ理解できていないから、なのだと思う。

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