第18話
「失礼いたします。」
「ん。」
私が落ち着いて食事ができるようにか、月夜が部屋を出て行った。寝室には、私と眠る火炉だけ。
膝の上で寝息を立てる火炉の表情は少しだけ幼い。
安心しきっているその顔。昔は、私の前でだけ見せたもの。
だけど今は、月夜の前でも。
「はぁ。」
考えても仕方のないことだと思った。火炉と月夜は眠る私を前にこの部屋で93年間顔を合わせていたのだから、通じるものがあるのは当たり前のこと。
どうしようもないことなのだから、今浮かんでいる感情は、考えることすらしちゃいけない。
「良い香りだ。」
「っっ、火炉、起きてたんですか?」
自ら認めたくない醜い感情を見ないふりをした。だけどそれを、この人が分からないはずはない。
「私用ですけど、きっと火炉の分もありますよ。こんなに多いんですから。」
火炉から目を逸らして食卓の上に並ぶ色とりどりの料理たちを見た。だけどすぐに、火炉の長い指先が私の顎をとらえて、こちらを向けとばかりに誘導される。
こんな私を見てほしくない、のに。
だけど合わされた目は、意外にも私を責めているわけじゃ、ない?それはむしろ……。
「美味そうな殺意だ。」
「っっ。」
まっ赤な火炉の目が食欲を孕んで細められる。あふれ出た食欲は私を食らおうと、ねっとりと絡みついた。
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