第15話

「火炉。」



火炉の頬に手を滑らせても、火炉の嫉妬に燃える瞳は目の前にはいない相手を睨みつけている。



それは言ってみれば……。



---私が、見えていない。




自分の内側からドロドロと湧き上がるなにかが、ニヤリと笑った気がした。




「は、あ、火炉っ。」




苦しさにあえぐのどの奥にはなにかが詰まって、私に息をすることを禁止する。なにこれ、胸が痛い。こんなにも張り裂けそうなほど胸が痛むなんて。




火炉が、私を見ていない。



火炉が、私をもう愛して、いない?



火炉が、ウツワを、捨てた。





「あ、ああああ。」



「和子?」





胸だけじゃない。体が引き裂かれそうだ。痛い……痛い!




「和子!」



火炉が私の名前を呼ぶ。少しだけ痛みが和らいだ気がしたのは一瞬だけ。すぐに強烈な痛みが襲ってくる。



「和子、和子!」




寝床の上で暴れる私の体を抑えて、火炉が何度も名前を呼ぶ。それだけ、それだけなのに、少しずつだけれど痛みは薄れていく。




ズキズキと痛む体。痛みで自分の手で押さえることすらできない。ただ、激痛に耐えながら私は、寝床の上で火炉の顔を見ることしかできないでいた。




「か、ろ。」


「なんだ。」




火炉ってば、そんなにも焦って。




「どうした?痛いのか?ん?」



まっすぐに私を見て、心配してくれている。



ああ、よかった。私はまだ、火炉に愛されてる。



そう思った瞬間、体中の痛みがすっと消えた。

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