第12話
「可愛いな。」
「っっ、からかわないでください!」
嫉妬に駆られる和子の殺意。そして醜い嫉妬の香り。すべてが心地よく、俺の食欲を誘う。
「どうだ。可愛いだろう?俺の妻は。」
「……当たり前でございます。」
「火炉!」
そして俺と月夜の間に交わされる言葉も、こうして和子がいればこそ成立する。
あの部屋でただ空腹と戦い、眠る和子を前にしていた時は、互いがその存在を意識していたのかさえ危うかった。
俺には、月夜の目が必要だった。
そして月夜は、和子から離れるわけにはいかなかった。
俺たちの間に何かがあるとしたら、それは利害にすぎないだろう。
「和子様、傷の手当をいたしますか?」
「……月夜。」
場の空気の読めない月夜の発言に、和子が責めるような視線を向ける。しかしそれを受け止めた月夜の目は至極冷静で、この主従の間にある温度の違いに笑みがこぼれた。
「クックックックッ。」
「何を、笑ってるんですか?」
和子のとげのある声に、いちいち怯えていた小鬼はいない。93年という年月は鬼にとっても長く、それはただの小鬼を立派な鬼へと変貌させる。
そして、俺にとっては和子を捕食せんとする雑魚が1匹増えたにすぎず、ただ刻まれた年月が、厄介さを積み重ねてきた、そう思う。
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