第11話
「言ってみろ。誰も怒りはしないぞ。」
「別に、私は。」
今にも泣きだしそうな顔をしているくせに、和子は強がりを言う。それなのに、俺と目が合うと途端に、気まずそうに逸らすのだ。
ほら、何かを思っていなければお前は、俺から目を逸らすなんてしないはず。
こんな女、他に変わりなどいない。人間だけじゃなく、鬼の中を探しても居はしない。
俺の名を堂々と呼び、俺にまっすぐに愛情を向けられるのは、この世、いや、あの世を探したとしてもお前ただ一人だけなのだから。
「ちょっと……。」
「ああ。」
腕の中の和子は、額を俺の胸に何度もぶつける。
「2人の仲が良いので、嫉妬した、だけです。」
「和子様?」
可愛らしい我が妻は、相変わらず突拍子もないことを言うものだ。俺と月夜の仲が良い?そんなこと思ったこともない。
当たり前だ。この鬼は93年もの間、俺の監視者であったのだ。
俺が、自制できず和子を殺してしまわないよう、ただ見届けるだけの存在。
「バカを言うな、和子。」
そして俺の言葉に同意するように月夜も頷く。当たり前のことだ。俺と月夜の間には関係という関係もほぼなく、この93年の間でも言葉を交わしたのはほぼ記憶にない。
「でも。」
そう言って食い下がる和子は、どうしても俺と月夜の間に何かを込めたいようだが、俺と月夜の関係こそ、和子という存在がなくてはなんの意味も持たないものなのだと思う。
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