第8話
「どうした?和子。」
この世で最も安心するその声に顔を上げれば、目に入った光景に愕然とした。
「か、ろ、その傷、は。」
「ん?ああ。」
火炉の腕に、胸に無数についたひっかき傷。古い物から新しいものまで、おびただしい数が火炉の体を覆いつくしている。
先ほど、寝床の上では分からなかったそれは、火炉が裸になったことですべてが見えていた。
新しい傷はまだ血がにじんでいるというのに、火炉は眉一つ動かさずに湯船につかる。
「入ってはだめです!」
「なぜだ。」
不満そうな顔は、傷のことなどなんでもないと語っているけれど、それは私が、平気じゃないから。
「ばい菌が入ってしまいます。」
「ふ、ばい菌に殺されるか?この鬼の王が。」
愉快そうに笑う火炉は、この無数の傷跡を気にするそぶりもなく。どうやら説明も、してくれる気はないらしい。
「和子様。どうなされますか?」
「月夜。」
するといつの間にか月夜が姿を現していて、まるで私自らが呼び出したように、命令を待っていた。
「なんで、こんなけがを。」
「我慢なさったのです。」
「え?」
「我慢なさったのです。空腹を。」
「っっ。」
至極冷静に、月夜はそう答えた。思わず火炉を見ても、火炉の表情は何一つ変わってはいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます