第8話

「どうした?和子。」




この世で最も安心するその声に顔を上げれば、目に入った光景に愕然とした。




「か、ろ、その傷、は。」



「ん?ああ。」





火炉の腕に、胸に無数についたひっかき傷。古い物から新しいものまで、おびただしい数が火炉の体を覆いつくしている。



先ほど、寝床の上では分からなかったそれは、火炉が裸になったことですべてが見えていた。



新しい傷はまだ血がにじんでいるというのに、火炉は眉一つ動かさずに湯船につかる。



「入ってはだめです!」


「なぜだ。」




不満そうな顔は、傷のことなどなんでもないと語っているけれど、それは私が、平気じゃないから。




「ばい菌が入ってしまいます。」


「ふ、ばい菌に殺されるか?この鬼の王が。」




愉快そうに笑う火炉は、この無数の傷跡を気にするそぶりもなく。どうやら説明も、してくれる気はないらしい。




「和子様。どうなされますか?」



「月夜。」




するといつの間にか月夜が姿を現していて、まるで私自らが呼び出したように、命令を待っていた。



「なんで、こんなけがを。」


「我慢なさったのです。」



「え?」


「我慢なさったのです。空腹を。」


「っっ。」




至極冷静に、月夜はそう答えた。思わず火炉を見ても、火炉の表情は何一つ変わってはいない。

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